第38話

#38.桜の木の下、想いを埋めよう【中編】
179
2024/04/17 12:12
てると
で、これが待ち伏せのサインで、これが取引のサイン…ほかにも色々あります!
ゆきむら。
へえ、すげえな、お前その歳でもう現場出てんのか
てると
けっ、結構頼りにされてるんですよ!これでも!
春の風が靡く中、てるとに現場で使うハンドサインを教えて貰いながら大きな欠伸をした
ゆきむら。
それにしても……
てると
ゆきむら。
いや……最近呼び出し多いなあって…
てると
組織内もザワついてますよね
ゆきむら。
火がねえとこに煙は立たねえからな…
てると
しゆんさんも…『本部が最近きな臭いから絶対中には入るな』って…
ゆきむら。
相変わらず過保護だこった…
てると
しゆんさん…呼び出しの日はいっつも嫌そうな顔してるんです。……大丈夫かな
ゆきむら。
………
見るからにしゅんとしているてるとの頭をカーキ色のフードの上から小突く
てると
いてっ
ゆきむら。
子供がンなこと気にすんな
てると
………でも…
ゆきむら。
眉間に皺作んのはあと10年歳とってからにしとけ、不細工になりたくなきゃな
てると
………
口を尖らせて明らかに拗ねたてるとに「他になんか言ってたか?」と話題を変える
てると
他には………
てると
……ゆきむらさん
てるとの視線の先に振り返ると、ビルのドアから2人の黒スーツが出てきた
てると
……本部の人達です。しゆんさんに貰ったリストに載ってました
ゆきむら。
煙がこっちまで来やがったか……
てると
お話ししに来た……って感じじゃ無さそうですね…
背後の壁裏にも1人います、とてるとが言う

腰に掛かった日本刀を引き抜ける体勢に変えた
ゆきむら。
そっち頼んだ
てると
はい
ゆきむら。
……なんの用っすか、本部の人っすよね

「しゆんとそうまの部下だな?」
ゆきむら。
だから?
「一緒に来てもらおうか……ッ!」
2人の男が一気に飛びかかって来る

後ろで銃声が聞こえたがてるとなら大丈夫だろと気にせず襲ってきた奴の手を鞘で払い落とした
その勢いで刀を抜きもう1人の足を斬る
バランスを崩した彼の胸に刀を刺し込みかしらを蹴り押すと奥にいたもう1人の腹まで刺さった
そのまま奥のヤツの首を蹴って倒れたのを確認してから刀を抜くと血飛沫が飛ぶ
ゆきむら。
……きったね…
元々自ら鉄火場に足を踏み入れたような奴らなのだ。

慈悲なんて持ったら生き抜いていけない世界で僕らは生きている
てると
ゆきむらさん、ほっぺに血が!
そう言って袖で血を拭ってくれるてるとの手には血が滴るサバイバルナイフがあった
ゆきむら。
……綺麗に殺したな…
てると
動脈で1発です!こうやって!!
ぶん、とナイフを1振りすると付いていた血が舞い僕のスーツにべちゃりと飛んだ
てると
うわぁああっ!ごめんなさいっ!
ゆきむら。
…………
そう言って慌てるてるとが妙に可笑しくて、俯いて口を手で抑えた
ゆきむら。
っ、ふふ、ははっ、…はははっ
てると
えっ、えっ?!どうしたんですか?!
ゆきむら。
い、いや…っ大丈夫、ごめんな、はは…怪我とかねえか?
てると
ない、です…!
ゆきむら。
ん、
そう頭を撫でると目を瞑って享受する姿が猫のようでまた笑いそうになる
てると
子供扱いですか、!!
ゆきむら。
ちっげえよ、頭がそこにあんのが悪いんだろ
てると
しっ、身長弄りですか!!!
ゆきむら。
あーもーめんどくせぇーなあ
そうま
ゆきむら!!
ゆきむら。
……あ、そうま
しゆん
なんか嫌〜な予感して来てみれば……てるちゃん怪我ない?
てると
はい!1発でキめました!!
しゆん
よし!
2人がジャれてるのを横目にそうまに話しかける
ゆきむら。
……で?なんで狙われたの
そうま
………ごめんな
ゆきむら。
謝るんで済むなら警察も殺し屋もいりませーん……で、会合終わったのかよ
しゆん
おー、終わった終わった。いつもありがとなゆきむら〜
ゆきむら。
子守りみたいで楽しいっすよ
てると
子守り……!?
しゆん
うんうん、仲良さそうでなによりだねえ
てると
僕、ちゃんとできてましたよね!?
しゆん
そーだねえ
てると
あっ!ちょっと〜!!!
いつもの様に抱えられて去っていく2人を見送りながら苦い表情をしているそうまを眺めた
ゆきむら。
……話す気ないのかよ
そうま
………
そうま
面倒事に巻き込むにしては、お前に情があるんだよ
ゆきむら。
よく言うわ……どうせしゆんさんとなんか企んでんだろ。てるとどうすんだよ
そうま
悪いようにはしないんじゃないか。結構気に入ってるみたいだし
僕らを繋ぐ糸がほつれ掛けている事は、薄々気づいていた
きっとこの人たちは、僕らを置いていくのだと
事は悪い方向に向かっているのだと。
ゆきむら。
せめて……
ゆきむら。
……せめて、てるとを泣かさないでやってくれねえかなあ…
そうま
……お前はどうなんだ?
口角を上げて余裕の表情でそんな事を言うそうまを、はっ、と鼻で笑ってやる


ゆきむら。
手ぇ叩いて喜んでやるよ
隣の顔を見ず、転がった死体を蹴った

走る。
地を蹴りあげる。
早く着け。速く走れ。



手に持つ紙を握りしめ、目の前の葉桜を見た
ゆきむら。
てるとっ!!!!!
てると
ゆきむら、…さんっ……!
ゆきむら。
………っ、
てると
僕の、っ僕のせいで…!しゆんさんが…!

この子の目が好きだと言った貴方は、この子の目から涙を流させるのですか。
苦しい思いを、させたかったのですか。



舌の上を転がったのは



不覚にも、しょっぱい味だった。

プリ小説オーディオドラマ