春の風が靡く中、てるとに現場で使うハンドサインを教えて貰いながら大きな欠伸をした
見るからにしゅんとしているてるとの頭をカーキ色のフードの上から小突く
口を尖らせて明らかに拗ねたてるとに「他になんか言ってたか?」と話題を変える
てるとの視線の先に振り返ると、ビルのドアから2人の黒スーツが出てきた
背後の壁裏にも1人います、とてるとが言う
腰に掛かった日本刀を引き抜ける体勢に変えた
「しゆんとそうまの部下だな?」
「一緒に来てもらおうか……ッ!」
2人の男が一気に飛びかかって来る
後ろで銃声が聞こえたがてるとなら大丈夫だろと気にせず襲ってきた奴の手を鞘で払い落とした
その勢いで刀を抜きもう1人の足を斬る
バランスを崩した彼の胸に刀を刺し込み頭を蹴り押すと奥にいたもう1人の腹まで刺さった
そのまま奥のヤツの首を蹴って倒れたのを確認してから刀を抜くと血飛沫が飛ぶ
元々自ら鉄火場に足を踏み入れたような奴らなのだ。
慈悲なんて持ったら生き抜いていけない世界で僕らは生きている
そう言って袖で血を拭ってくれるてるとの手には血が滴るサバイバルナイフがあった
ぶん、とナイフを1振りすると付いていた血が舞い僕のスーツにべちゃりと飛んだ
そう言って慌てるてるとが妙に可笑しくて、俯いて口を手で抑えた
そう頭を撫でると目を瞑って享受する姿が猫のようでまた笑いそうになる
2人がジャれてるのを横目にそうまに話しかける
いつもの様に抱えられて去っていく2人を見送りながら苦い表情をしているそうまを眺めた
僕らを繋ぐ糸がほつれ掛けている事は、薄々気づいていた
きっとこの人たちは、僕らを置いていくのだと
事は悪い方向に向かっているのだと。
口角を上げて余裕の表情でそんな事を言うそうまを、はっ、と鼻で笑ってやる
隣の顔を見ず、転がった死体を蹴った
走る。
地を蹴りあげる。
早く着け。速く走れ。
手に持つ紙を握りしめ、目の前の葉桜を見た
この子の目が好きだと言った貴方は、この子の目から涙を流させるのですか。
苦しい思いを、させたかったのですか。
舌の上を転がったのは
不覚にも、しょっぱい味だった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。