放課後。
今日も海辺にやって来た私達。
まだ夕陽が沈むには早い空の下、としみつは私の名前を、もう迷いなく呼んでくれた。
何度も、何千……何万回も聞きたかったその声。
夢のように甘くて、でも確かに“今”に存在している音。
私は嬉しくて、胸がじんわりと熱くなった。
としみつは空を見上げながら言った。
その視線の先にあるのは、これまでの記憶か、それともまだ見ぬ未来か。
私は彼の横顔を見つめながら、言葉を探す。
としみつは、ふっと笑った。
私達は自然に笑い合った。
遠くから潮風に乗って、波の音が微かに届く。
この海辺は2人の時間をいつも包んでくれる、静かな聖域だった。
その夜。
布団にくるまりながら、スマホの画面を見つめる。
としみつから、こんなメッセージが届いていた。
目頭が熱くなった。
名前をつける……?
未来に名前を──
私は深く考えた。
この恋に輪廻の果てに辿り着いた想いに、ぴったりな名前。
やっと辿り着いた私ととしみつのたったひとつの“今”を示す名前。
そして数分後。
私は返事を打ち込んだ。
すぐに既読がついて、返信が届いた。
翌朝。
登校途中の坂道。
いつもの場所で待っていたとしみつは、少し照れたように私を見て言った。
私達は笑い合って歩き出す。
輪廻のない世界で。
魔法も何もない、ただの“今”の世界で。
だけど、確かにそこに生まれているのは、
“2人の時間”。
これまで幾度となく名前を変えてきた世界。
けれど、今度こそ本当の名前をもらった。
【ここから】
それは恋の始まりでもあり、
2人の終わりなき未来の“第一歩”だった。
数日後。
としみつがポケットからそっと何かを取り出した。
小さな銀色のネックレス。
ペンダントトップには、英語でこう刻まれていた。
“From here”
彼はそれを、照れくさそうに私に差し出した。
私はそれを胸にかけた。
もうステッキはない。
でも私達の間には、ちゃんと名前がある。
2人だけの“ここから”が。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!