嬉しくなって声のトーンをあげたわたしに、朗くんが照れ臭そうにうつむいて笑う。
見た目が変わったことにも驚いたけど、朗くんがまた料理の仕事を始めるなんて。
少し前までのことを思うと、考えられなかったほど大きな変化だ。
わずかに眉をしかめると、朗くんがふっと笑う。
呼吸に紛れてしまいそうなほど些細な笑い声だったけれど、それでもひさしぶりに見た朗くんの笑顔に胸が詰まった。
この3年間、生気の薄かった朗くんの瞳が、しっかりとした意志を持ってわたしのことを見つめていて。
それだけで、嬉しくて胸がいっぱいになる。
ふふっと笑ってそう言うと、「は?」と口を開けた朗くんの顔がじわじわと赤くなる。
そんな朗くんの表情も新鮮で、朗くんが閉じ込めていた感情をこれからはもっとたくさん引き出せていけたらいいと思った。
玄関に靴を脱ぐと、朗くんの手を繋いでリビングへと引っ張る。
困惑している朗くんを、リビングの沙希さんの遺影の前に立たせると、わたしもその隣に並ぶ。
小さな長方形の額の中で微笑む沙希さんは、今日も変わらずとても優しい目をしている。
わたしはその目をしばらくじっと見つめりと、顔の前でパチンと手を合わせて目を閉じた。
隣から聞こえてきた声に振り向くと、朗くんが耳まで顔を赤くしていた。
ふふっと笑うと、朗くんがぎゅっと真横に結んでなんとも言えない顔をする。
にこっと笑いかけると、朗くんが表情を和らげる。
笑い合うわたし達のことを、わたし達の未来を──、沙希さんがすぐそばで優しく見守ってくれているような気がした。
fin.
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。