ダダダダダダッ
ガスッ
その瞬間、子供を追いかけていた男に衝撃があった
物心ついた時、私はスラムで暮らす1人の人間だった
スラムにはお金も家も着替えもない
毎日食べるものに困っては周りの子供と協力して盗みを働いた
そんなことをしても私たちの体はボロボロでいつも腹を空かしていた
盗みは失敗したら売り主やその仲間に殴られ蹴られ
成功したらスラムに住む大人に力で奪い取られる
残っていたとしてもスラムには子供もたくさんいる
正直、なんで盗みなんてことしているんだって思うでしょ?
答えは私たちにはそれしかできないから
"スラムに住んでいる"
その事実が私たちから選択肢を無くす
働けば良いじゃないか、学校に行って勉強すれば良いじゃないか、人の為に尽くせば良いじゃないか
そんな綺麗事が通用すると思ってんのは平和な世界で生まれ育つことができた馬鹿共だけ
働く?
スラムで育った者は汚れた人殺しの可能性がある
学校に行く?
学校に行く金なんかない
人の為に尽くす?
殴られて蹴られて虐げられてきたのにそいつらの為に何かしてやりたい訳ないだろ
人殺しで金も無い、下手したら自分達に復讐を考える
そんな奴らを誰が受け入れようと思うんだ?
ああ、一応いるかもね
よっぽどの聖人か、「人助けする自分偉い!」って思いたいクズか
どうせ心の中で考えてんのは「可哀想、惨め」
そんなのに受け入れられるくらいなら
私たちは望んでスラムで暮らす
まあ、でも割と幸せだった
私にとって何よりも大切なことは仲間たちと笑って生きていられることだったから
そんな日常、簡単に壊れた
ある日、私は仲間を失った
仲間と呼んだ彼らは私を恐れた
私が声をかけて返ってくる言葉は
"バケモノ"
今まで使うことのなかったその言葉はいつの間にか私を指す唯一の言葉となった
そんなことになった原因、それは______
人間が一生手に入れることのない蒼の翼
それは私を敵と認識するには十分な理由だった
出歩くたび、人間は私を避ける
だが、その日は違った
1人、こちらをじっと見る者がいた
黒いローブをその身に纏う高貴な人間だ
その人間は目を細め私を見る
バサッ
その人間、いやその"バケモノ"は羽織っていた黒いローブからそれよりも遥かに黒い、言わば漆黒の翼を日の目に晒す
得体のしれない不気味な笑顔で彼女は人間に言う
雰囲気で分かった
このバケモノは何百、何千いや.......何万もの人間を殺してきた本物の殺人鬼だ
本能が言っている
______気がつくとその場にいたはずの人間は消え、私と彼女たった二人になっていた
彼女は微かに目を見開いた
その時、私は1人の吸血鬼"月"となった












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。