ーほどけない距離ー
冬の空気は音まで冷たくする。
歩く度に靴底が地面を鳴らし
白い息が夜に溶けていく。
ゆあんくんはえとさんのほんの後ろを歩いていた。
えとさんは白いマフラーをぐるりと巻いて
口元がほぼ見えない。
それなのに、表情が何となくわかるのが
不思議だった。
とえとさんが一言
そんな他愛のない会話なのに、
言葉を交わす度に胸の奥が少しずつ騒がしくなる。
そんな会話で充分だった。
沈黙があっても気まずくならない
少し風が吹いて、
えとさんのマフラーがずれた。
えとさんが直そうとして、
うまくいかずに困った顔をする。
ゆあんくんは反射的にに手を伸ばしていた。
距離が近づく。
息が白く交わるほど。
マフラーに触れた手先が、少し冷えている
それがわかってしまってむねがきゅっとする
(、こんなこと今まで気にしてこなかったのに)
ゆっくり整えて、手を離す
えとさんは少し照れたように笑った。
えとさんの声はいつもより柔らかい。
その笑顔を見た瞬間、
胸の奥で、なにかがはっきり形になる。
そのまま、また歩き出す
こんどは自然と並ぶ形になった。
肩が触れそうで、触れない。
でも、その距離がやけに意識される
えとさんがぽつりという
ゆあんくんは一瞬、言葉に詰まる。
ヒロくんの気持ちをえとさんは全部知らない
でも、何かを感じ取ってる気はしていた。
えとさんの言葉にゆあんくんは
答えられなかった。
(俺も、)
胸の中でそう思う。
えとさんの横顔を見る
マフラーに埋もれた顔は少し赤い
守りたいって思った
でも、その気持ちを口にする勇気は、
まだない。
それだけ言うてと、
えとさんは少し驚いた顔をしてから、笑った
その一言で、胸がいっぱいになる
気づいてしまった
もう、戻れないところまで。
でも、今日は踏み込まない
この距離を大事にする。
息が重なり、2人は同じ速さで歩き続けた。
ほどけないままの距離が、
確かに、前より近くなってることを感じながら。
─────────白い息はすぐ消えたのに、
───────────その間に生まれた想いだけが
─────────────どうしても消えなかった。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!