どこまでも田んぼが広がる田舎の風景の中に、それはあった。
おしゃれな赤茶色の外壁が覆う、四階建ての無駄に横に長い建物。
周りの風景とは一味違ったオーラを放つこれこそがまさしく、私の学び舎となる“尾色地県立大路良高校”である。
制服やら教科書やらの発注の関係で、加古井家での生活が始まってから学校に通えるまで少し時間がかかってしまった。
そして今日は登校初日。初めて踏み入れる学校に期待と不安を半分ずつ胸に募らせながら、登校したらすぐ来るように指定された“職員室”までやってきた。
朝から職員室に用のある生徒は意外と多いらしく、前の廊下は少々混雑している。なんとか人の合間を縫って、奥で手を高く挙げている担任の先生のもとまでたどり着いた。
もうすぐ始まる朝のホームルームとやらで、私の存在をクラスのみんなが知るそうだ。いざその時が近づいてくると、やはり緊張が大きくなってくる。
私の心は見透かされているのかもしれない。先生はそろそろ教室に向かう時間だと告げ、荷物を持って歩き出した。まだ教室までは行ったことがないので、はぐれないようその後をついていく。
教室の後ろの扉を少し開けた先生は、その隙間に顔を入れて教室内の生徒たちにそう呼びかける。この前初めて話した時から思っていたが、この先生はやけにテンションが高い。
ささっと扉を閉めた先生は、前の扉に向かう。手招きをされて私もそちらに向かうと、先生は扉を開けて先に中に入っていった。
壁を挟んでざわつきが聞こえてくる。ちらっと横を見ると、窓越しに何人かの生徒と目が合う。先生に中に入るよう促され、私は彼らから慌てて視線を外す。
“1-6”と札のかかったこの教室。今日からここで私の学校生活が始まる。開かれた扉から、私は教室の中へと一歩を踏み出した。
特に他に言うこともないので、自己紹介は簡単に済ませた。軽く頭を下げて、クラスメイトたちから拍手をもらう。
一番後ろの廊下側。その空席に私がおさまることで、このクラスの席はちょうど6×6の正方形になった。
担任の先生は続けてその他の連絡事項を伝えていく。文理選択についてや、今度実施される模試がどうの……。そして、今日は外部から講師を招いて進路についての講演があるとか……。来たばかりにもかかわらず少々ハードなスケジュールが待っているようだ。
こうして私の高校生活がスタートした。黒板の時間割を確認して、一限目の準備を済ませると、すぐに授業開始のチャイムが鳴った。
お察しの通り、終始何を言っているのかさっぱり分からない。ラジオ講座で学んでいる外国語のほうがよほど簡単だと思えてしまう……。
朝一番からすうすうと気持ちよさそうな寝息を立てている隣の席の男子生徒を恨めしく一瞥し、なんとか先生の解説を理解しようと机にかじりつく。
指定されたページの問題に目を通す。解説が理解できないから問題なんて解けるはずがない……。でも、とにかく教科書の例題を参考にしながら解いていくことにした。
問題に熱中するあまり、大きな声が出てしまっていたのに気がついたが、時すでに遅し。転校初日の一発目の授業にして、クラス中からの注目を集めてしまうことになった……。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。