*side 千空
「で、いつ籍入れんだ」
夕飯時。
スプーン片手に口を開けた
あなたが動きを止めた。
そして、その間抜け面のままで
ゆっくりと俺の方へと顔を向ける。
「……閉じろ、口」
「だって……だって、そんなん
千空から聞かれると思ってなかったから」
「聞くも何も、日付決めねぇことには
話進まねぇだろ」
そのためにこっちは、
柄にもないことを考えて、準備して
伝えたってのに。
「何それ!私のこと早く
お嫁さんにしたいんじゃん、好きすぎ!」
そしてこいつは、相変わらず
自分に都合のいいように考えてやがる。
「で、いつにすんだ?役所行くなら平日だろ
……来週の火曜なら、昼から動けんな」
「え?」
「あ?」
「事務処理みたいにしないでよ、入籍を!」
眉を寄せて、
心底不満そうな顔をする。
……何が違う?
「事務処理だろ、窓口で書類を出すだけだ」
「もう……!違うの!」
こういう時は、
大抵俺らの価値観がズレてる。
考えろ。
統計的に見ても、初手で詰めば
その後の夫婦関係に大きく影響が出る。
「……どのへんだ、違うの」
「だって入籍日ってことは、
結婚記念日になるってことでしょ?
私は、どんな日にするかとか、意味とか
そういうのちゃんと大事にしたいの」
口をきゅっと結んだあなたが
目線を落として呟いた。
「こういうのって
ちゃんと覚えてたいし……思い出にしたい」
正直、
" いつだろうと忘れることはねぇだろ "と思った。
当たり前だ、何せ
その日は強制的に毎年やってくるんだから。
ただ、これは
論理で押し切る話じゃねぇな。
そもそもこいつは、こういうやつだった。
「……だったら、その
思い出とやらにすんのは、いつがいいんだ」
「せっかくなら、来月の29日にしたくて」
「来月?」
来月のその日は、3月29日。
それは、
俺らが ────
「うん、一緒に暮らし始めた日。
" 未来に福あれ "って話したでしょ?
語呂的にもいいかなぁって」
「あぁ、」
言った、言ったなたしかに。
ダンボールまみれ、カーテンもねぇ部屋で
カップ麺食いながらそう話した。
思い出して思わず笑いが零れる。
「こういうのって一生に一回かもしれないし
私はちゃんと意味のある日にしたかったの」
「あ?」
こいつは、何を言ってやがんだ?
「一回かもって……
今回きりだろ、普通に考えりゃ」
何、驚いたみたいに目丸くしてんだ?
籍なんて一回入れりゃあ
それで終わりだろ。
こんな手間のかかること
二回も三回もあってたまるかよ。
「ふふっ」
「んだよ」
「……うぅん、なんでもないよ」
目を細めてそう言ってから
また夕飯を食い進める。
「あー、私って本当に幸せ者〜」
「そりゃあ、おめでたい頭で何よりだわ」
「全力で予定空けてよね?来月の29日」
んなもん言われなくても、
頭ん中でもうスケジュール組み立ててんだよ。
「できる限り、善処するわ」
入籍日なんて、
たかだか暦のひとつ。
それに新しく名前がついて
毎年必ずこいつのことを考える。
俺にとっちゃ
ただ、それだけのことだ。
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千空の中では、あなたと一生いるのが当たり前


そして久々の更新だったのに🤍や💬、🔦など 嬉しかったです 😭
本当にありがとうございます…!













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!