─ 境界線の内側で ─
【白墨 side】
雄英高校に入るつもりは、あった。
理由は単純だ。
ここは、正義がもっとも“正しく”管理されている場所だから。
(……噂通りだな)
そう考えながら、校内の影に身を沈めて進んでいた。
監視。結界。警備動線。
どれも洗練されているが、
「守ること」を前提に作られている以上、
抜け道は必ず残る。
ただ──
気づいた時には、
ここまで来ていた。
瓦礫と通路が組み合わされた人工市街地。
人の気配が一気に増え、
同時に、外の世界から切り離された空間。
(……訓練施設、か)
ここまで入り込むつもりはなかった。
ましてや、生徒の訓練時間に重なるとは思っていなかった。
(……運が悪い)
足元で、墨がわずかに滲む。
感情が動いた証拠。
物陰から様子を窺った。
連携。判断。号令。
教えられた通りの動き。
無駄がなく、綺麗で、正しい。
(さすが、雄英)
感心はあった。
だが、それだけで通り過ぎるはずだった。
その時──
通路の向こうから、一つだけ違う視線を感じた。
ただ一人、
他の連中とは少し見方が違う目があった。
警戒ではない。
敵意でもない。
状況を、必死に“考えている”目。
(……面倒だな)
立ち止まる理由になるとは思っていなかった。
それでも、足が止まった。
声をかけたのは、ほとんど衝動だ。
「判断、遅いな」
少年の目が揺れる。
次の瞬間、墨が床を這った。
縛るためじゃない。
迷わせるためだ。
(……これでいい)
「ここ、訓練場だろ」
少しだけ、自嘲が混じる。
「……ヒーロー向きじゃないな」
別に否定するつもりはなかった。
ただ、そう見えただけ。
気配が増える。
(……そりゃあ来るよな)
教師。プロ。
対応が早い。
影に溶けながら、
最後にもう一度、少年を見る。
まだ、考えている目をしている。
(……やっぱり、面倒だ)
だが──悪くない。
雄英に来たのは、意図的だ。
けど、ここで誰かと交わるつもりはなかった。
それでも。
俺はまだ、その“線”を越える気はない。
影が消え、墨が引く。
境界線の内側で、
俺は今日も、その場所に立っている。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。