─ 灰色 ─
夜の路地に、白墨は立っていた。
金属バットを肩に担ぎ、逃げ道を数える。
「……詰み、か」
ヒーローの声。正義の手順。
どれも『正解』だ。
足元で、墨が静かに滲む。
感情に反応する個性は、
諦めに近い彼の気持ちで一番よく動いた。
「俺、ヴィランじゃないんだけどな」
誰にも届かない独り言。
一歩踏み出し、バットを振る。
守るためでも、壊すためでもない。
──ただ、線を引くため。
灰色の影が立ち上がり、
ヒーローの動きが止まる。
迷い。
それは、正義が最も弱くなる瞬間だ。
次の瞬間、
衝撃音とともに視界が黒く染まった。
数秒後、路地は空っぽだった。
残ったのは、
墨の痕跡と白く擦れた金属の跡だけ。
彼は今日も、
ヒーローにもヴィランにもならず──
境界線の上を歩いている。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。