✎𓂃 隣人 / ? / 夢主視点
動揺を隠すように返すと、
言さんはきょとんと目を瞬かせた。
あまりにも、あっさりとした答え。
不思議そうに尋ねられ
私は言葉に一瞬詰まりそうになるが…
少し笑いを含んだ声。
言さんは、小さく肩をすくめる。
静かな沈黙に、
窓を叩く雨音が部屋に響く。
なんとなく
気まずい雰囲気になってしまったかもと思った時…
言さんが、ぽつりと呟く。
居心地の悪さに視線を逃がしていたのに
不意に顔を上げると、東さんの視線に捕まった。
心臓が高鳴るけど…
言さんは視線を逸らさず、静かな声で続けて言う。
私は、何を聞いているんだろうと
頭の片隅で思う。
でも 言葉にしてしまった。
あの柔らかい笑顔で、ふっと微笑む。
どうに返せばいいのか わからない。
そんな私を見て、言さんは少しだけ困ったように
そう言いながらも、
その表情に後悔の色は見えなかった。
むしろ、こちらの反応を伺っているようで…
なんとも言えぬ感情のまま、
ドライヤーで髪を乾かし終えると…
新しい歯ブラシを出してくれたり
家と変わらぬ夜の支度を済ますことができた。
クローゼットから
客人用の布団を取り出しはじめた。
言さんは穏やかに笑いながら
慣れているのか、手際よく布団を敷いていく。
私はその様子を見つめながら、
胸の奥がザワザワと落ち着かない事に気が付く。
明日の朝になれば、この夜は終わる。
雨も止んで、
明日の夜は自分の部屋へ帰る。
きっとまた…
今まで通りの隣人同士になる。
そう思うと、なぜだか少し寂しかった。
布団を整え終えた言さんが、顔を上げる。
これで、終わるはずだった。
けれど…
言さんは寝室へ向かおうとして、足を止める。
小さな、ひとりごと。
振り返った、言さんと目が合う。
数秒の沈黙…
窓の外では、相変わらず雨が降り続いている。
いつになく真剣な声に、思わず頷く。
また、数秒の沈黙… そして
飾らない、真っ直ぐでシンプルな言葉。
言さんは、照れているのか少し目を伏せる。
ドキドキが、身体中に響くのがわかる。
返事をしなければいけないのに、
何にも言葉が浮かんできてくれない。
言さんは、慌てて
その優しい声を聞いた瞬間
不思議と緊張がほどけ、私は小さく息を吸う。
言い終わる頃には、顔が熱くなっていた。
しばらく見つめ合ったあと…
東さんは安堵したように、ふっと笑う。
その言葉に、私も思わず笑ってしまった。
窓の外では、
まだ五月雨が降り続いている。
𝙚𝙣𝙙 .












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!