第5話

『日常』
28
2025/12/12 23:46 更新
図書室に通う日々が、ゆっくりと、でも確実に日常に溶け込んでいった。

気がつけば私は、授業の終わるチャイムが鳴るたびに、自然と机の上を片づけていた。
行き先は、あの静かな部屋――そして、御影 湊の隣。

御影 湊
御影 湊
今日は遅かったね。なんかあった?
図書室のドアを開けると、彼はすでに椅子に座っていて、こちらを見ていた。
月城 しずく
月城 しずく
……先生が話しかけてきた。進路の話
御影 湊
御影 湊
そっかぁ、もうそんな時期かぁ

彼は少し笑ってそう言ったけど、なんとなく目元が曇って見えた。
……気のせい、だと思った。
御影 湊
御影 湊
ねぇ、雫はさ。将来、なにになりたいの?


唐突な質問。けれど、私はすぐに答えられなかった。

なにになりたい、だなんて。
私には、もう“その先”が、ほとんど残っていない。
月城 しずく
月城 しずく
…考えてない
御影 湊
御影 湊
そっか。


彼はそれ以上、なにも聞かなかった。
いつものように、無理に笑い飛ばすわけでもなく、ただ静かにうなずいた。

――それが、少しだけ、嬉しかった。

私が言わなかったことを、無理に引き出そうとはしない。
黙っていても、そこにいてくれる。

そういう優しさに、私は慣れていなかった。
御影 湊
御影 湊
じゃあ、今日はちょっと読書以外のことしない?
月城 しずく
月城 しずく
…なに?
御影 湊
御影 湊
雫が知らない世界を、少しずつ教えてあげよう企画!
月城 しずく
月城 しずく
うるさい
御影 湊
御影 湊
えー、またそれ?
月城 しずく
月城 しずく
ここ、図書室ね
御影 湊
御影 湊
あ、そうだった

彼は苦笑いしながらも、鞄から何かを取り出した。
それは、1枚の写真だった。
御影 湊
御影 湊
これ、俺の猫


そこに写っていたのは、ふわふわの長毛種の白猫。少し眠たそうな目をしていた。
月城 しずく
月城 しずく
……かわいい
ぽつりと漏らした言葉に、彼が目を見開く。
御影 湊
御影 湊
え、今なんて言った?
月城 しずく
月城 しずく
……かわいいって言っただけ
御影 湊
御影 湊
え、雫がちゃんと感想言った!奇跡!
月城 しずく
月城 しずく
……殴るよ?
御影 湊
御影 湊
殴るよはやばい
くだらない。けれど、どこか心があたたかくなる。

その瞬間、私は少しだけ“生きていたい”と思った。

あと一年しかない命でも――
この人と笑い合えるなら、もう少しだけ、時間が欲しいと願ってしまった。

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