mj side
『もう、おしまいにしよう。』
今まで堪えてきた涙が溢れ出るのを我慢して彼に言ってしまった一言。これでもうやめれるんだ。
静かな雰囲気が流れる喫茶店で、僕らは関係を絶った。
ただただ辛い思いをして会うのが嫌だった。
元々友達だった京介とは友達という関係性で括るのは難しくなっていって。
お互い快楽に溺れて、満たされたら終わるだけ。
苦手だったホテルの暗さももう慣れてしまった。
彼にフラれてから僕の情緒はどんどんおかしくなっていって、最初の頃は京介がそれに気づいて優しくしてくれた。
京介の優しさが俺の何もない心を暖めてくれるような気がして一緒にいることも増えた。
でも、
家にいきなり凸って、勝手に酔っ払って、勢いで一緒にベットに飛び込んで。
おかしいって気づいてた。迷惑だって分かってた。
もうどうすることもできなくてただそのまま身を任せた。
ごめん、ごめん、って何度も謝るたびいいよって頭を撫でてくれるから、やめられなかった。そうしたら自然とぽっかり空いた穴が埋まった気がして嬉しくなった。
ああ俺ちゃんと彼を忘れることができるんだって。
彼と会えない寂しさを京介を利用して埋めることが申し訳なくて、辛くて、京介と会うことが憂鬱になっていった。
それでも寂しさは癒えなくて結局京介に連絡してしまう。
こんな状態が続いてしまっていいのか、僕はあの時から成長できているのだろうか。
ずっとこのままならいっそ、と思いついた解決策。
京介と離れて何か変わるのか分からないけど、なんでもいいからきっかけを作りたかった。
失恋を忘れることなんてもっと他にあるじゃないか。
それを探せばいいだけ。ただそれだけ。
「うん、いいよ。」
僕が放った一言の返事は意外とあっさりしていて驚いた。
こんなに勇気を出したのにそんなものなのかと少し苛立ったが、それよりも苦痛からの解放感が大きい。
お店を出ると、ひんやりした風が優しく吹いた。
『じゃあ、元気でね。』
「...またな。」
なんで、もう会う気もないって気づいてるのに"また"なんて言うんだろう。
そういうところがずるい。
fk side
迅と会わなくなってから3ヶ月。
別れを告げた時のあの顔が忘れられない。今にも泣きそうだったあの顔。彼はどういう気持ちで俺におしまいにしようと言ったんだろうか。
俺には知ったことではないが、どこかに後ろめたい気持ちがあったのだろう。
またな、なんて期待させるようなこと言ったけど俺は嘘なんて言ってないよ?
だって、どうせ迅は俺から抜け出せない。
現にこうやって俺の家に来たし。
広いソファに2人でかけても、迅との間は狭くなった気がしなかった。
顔は動かさずに視線だけ迅を目にやると どうしよう って顔に書いてあるような表情をして俯いていた。しょうがないな、と思い俺から先に口を開く。
『もうおしまいにするんじゃなかったの?』
『ちゃっかり家まで来ちゃってさ、全部が見え見えなんだけど。』
「別に、会わないとは言ってないし...」
見苦しい言い訳。迅のそういうところが子供っぽくて可愛い。どうせおしまいにするとか言って寂しくなっちゃったんだろう。俺以外のもので穴を埋めようと思っても上手くいかず、結局俺のところに来た。
こうなるだろうなって分かってた。今までもう会わないみたいなことを匂わせてたことは何度もあったけど、次に会う時には何もなかったかのように笑顔で俺のもとへ来ていた。
予想していたことだけどいざ来られると愛おしさが押し寄せて胸がくっとなる。
「どーせ京ちゃんも暇だったんでしょ?ならいいじゃん」
『俺がいつまでも暇だと思うなよ』
「はいはーい、ネトフリでも見る?」
「俺のテレビなんだけど?」
話を逸らしてリモコンを取り出した迅の横顔をじっと見つめる。
テレビの画面が映った綺麗な瞳。その下には青っぽいクマができていた。
綺麗な顔なのに勿体無い。そっと指でクマを触った。
迅がこちらを向き、無理して微笑みながら言う。
「クマ気になる?」
『うん』
「寝不足なのかなぁ、よく分かんないんどできちゃって。クマなんていつぶりだろ〜」
『振られたぶりでしょ。』
「っ、なんでそんなこと言うの?性格悪っ、あり得ないわ〜」
少しの沈黙の後下にあった迅の視線が俺を差す。
まるで助けてと言うように。
ゆっくりと迅に近づき唇に優しく触れる。
『今日はぐっすり眠らせてあげる』
迅を押し倒し軽いキスの続きをした。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!