第142話

#142
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2023/06/17 00:00
小太郎による俺の簡単な紹介が終わったら、
広げられた沢山のお弁当にみんなで手を伸ばす。

ちなみに三波斗の自己紹介は俺が来る前に
終わっていたらしい。

コミュ力の高い三波斗はすぐに他の人と仲良くなる。

俺も周りの人と話しながら、お花見を堪能する。



持ち寄ったお弁当の中には、小太郎の手作りだという
ちらし寿司もあった。

料理は全くしなかった小太郎が、
随分と上手になった。


清春を思い出そうとして前に俺らと一緒に作った頃
とは違う。

積み重ねて、ちゃんと上手くなっていた。

小太郎の友達は、年も離れて社会人である俺と
三波斗に遠慮したり、緊張したりしていたみたい
だけど、こっちから微笑んで話しかけると、
すぐに打ち解けてくれた。



少しづつ俺も変わっていく。

毎日色んなものが.......
見えない中でも動き続けている。


それがきっと、生きるということなんだろう。

ふと目を向ければ、小太郎も近くの友達と楽しそうに
話していた。



清春が作り出したかったもの。

それは、今のような小太郎の日常だったんだろう。

当たり前のことを当たり前のままに、楽しみ、
時に苦しみ、それも全て平穏な日常の中に、
夜眠れば明日がやってくる。


清春が信じていたもの。

それは今のような小太郎の未来だったんだろう。

そんなこともあったねと、何十年もしたら
過去のことにして辛い時期を笑い合えるような、
動き続けていくもの。


それから3人で話そうかと、桜鑑賞をかねて
桜並木を歩くことにした。

桜が描きたいからと、小太郎はクロッキー帳を
手にしていた。

いつものようになんでもない冗談を
言い合っている最中、俺は気になって尋ねた。
涼雅
涼雅
そういえば、どう?あれからは...........
足を止めた小太郎は、「何が?」とは問わなかった。

しばらくすると、うんとだけ言ってクロッキー帳を
差し出してきた。

不思議に思いながら受け取る。

通行の邪魔になってはいけないから、
木の下に場所を移した。


三波斗と一緒にクロッキー帳を開いて覗き込む。

その中には景色や人物、動物といった色んな絵が
描かれていた。

小太郎が日々、書き続けているものだろう。
三波斗
三波斗
相変わらず上手いなぁ~
涼雅
涼雅
でも、これがどうかした?
小太郎
小太郎
あ、ううん。
見てもらいたいのは、
少し先なんだけど...
小太郎
小太郎
ちょっと恥ずかしいな....
俺たちの間で、今更恥ずかしいことなんてないのに

頬を緩め、頭上を仰いだ。

さらさらと音もなく花弁が舞い落ちる。
三波斗
三波斗
それにしても、桜綺麗やな~
三波斗が言うと、つられるように小太郎も桜を見る。
小太郎
小太郎
雪みたいにも見えるよね。
空に知られぬ雪、だっけ?
小太郎
小太郎
日記で読んだんだけど、清春ともここでお花見したことあるんだよね。
その時に清春が桜の呼び方を
教えてくれて....

思わず小太郎に目を向けてしまう。

三波斗も思い出したみたいで、小太郎の方を見ていた

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