夜になり、
みんなもベッドに入り始めた頃。
俺はノートパソコンと、
数曲分のデータを持ってあなたの部屋へ向かった。
ノックをする。
返事はない。
でも最近はもう慣れた。
ゆっくり部屋へ入る。
ベッドの上にはあなた。
窓の外を見ていた。
反応はない。
俺は椅子へ座る。
スマホを取り出して、スピーカーで流す。
前に言っていた、みんなの音が好きだ
という言葉を思い出しながら。
再生ボタンを押す。
静かなピアノ。
優しいメロディ。
部屋の中へ優しい音が広がった。
何曲か流した後。
俺はふと思い出した。
『今度聞かせて』
あなたが言った言葉。
曲を作っていると話した時。
眠そうな顔で聞いてきた。
あなたは、覚えているかな。
小さく笑う。
俺はスマホを置いて
静かに歌い始める。
ただあなたに届いてほしくて。
寂しく響く声にやっぱり返事はなくて、
苦笑する。
だけど少しだけ。
あなたの瞳が揺れた気がした。
一人ずつ名前を挙げる。
何かひとつでも、あなたに届けば。
花畑の日を思い出す。
押し花を作った日。
絵を描いた日。
夜更かしした日。
全部、鮮明に思い出せる。
机にしまったままの紙を思い出す。
そのときには自然に言葉が零れていた。
その瞬間。
あなたの肩が小さく震えた。
俯いたまま。
動かない。
だけど、掠れた音が聞こえた。
本当に小さな。
消えそうな声。
聞き間違いかと思った。
俺の願いが幻聴でも聞かせたのかと。
顔を上げる。
あなたの瞳から涙が落ちていた。
もう一度。
今度は少しだけはっきり。
気付けば俺も少し涙が滲んで。
声が震える。
あなたは泣いていた。
前みたいには笑わないし、
身体も震えている。
それでも、確かに戻ってきた。
あの日から初めて、
やっと本当のあなたを見た気がした。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。