第41話

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2026/03/10 00:10 更新
Niki  side
父さんが、目を見開く。

まぁ、そりゃそうだよな。
さっき代表者記者会見が終わって、世間に正式に
コイツに代表引き継ぎましたって公表した後でさ。

もっと、もっと早く気付くべきだった。
ニキ  父
ニキ 父
……何を、言ってる。
ニキ
ニキ
………ごめん、父さん。
でも、俺には出来ないよ。
父さんはソファーに座ったままじっと俺を見つめた。
言いたいことはきっと山程あるだろうが、その言葉も
出てこないほど、困惑しているのがわかった。

勢いよく開いたのとは対照的にそっと扉を閉めて、
真っ直ぐ、父さんの傍まで歩いていく。

俺も正直、頭の中がごちゃごちゃしてて。
言いたいことがまとまってないまま来たから、
何から話したらいいか、わかんないけど。

でも、絶対に言わないといけないことはある。
ニキ
ニキ
俺ね、好きな人がいるんだ。
ニキ
ニキ
父さん、知らないと思うけど。
俺散々遊び歩いてたんだよ。
ニキ
ニキ
知らない女の家に上がり込んだり、
学校だってろくに行かず、ゲーセンに
入り浸ってさ。
ニキ
ニキ
でも、その人は俺を怒ってくれたんだ。
そんな事しちゃダメだって。危ないって。
ニキ
ニキ
俺の為に、怒ってくれた。
ニキ
ニキ
……初めてだったんだ。
俺に怒ってくれた人が現れたのは。
ずっと、色目を使われて、使ってきた。

自分の立場を利用して、周りに言うことを聞かせて。
それでしか自分の心を満たす手段を知らなくて。

今考えてみたら、随分虚しい生き方だった。
誰にも俺自身を見てもらえず、肩書きや、俺がいる
場所にしか興味がない、空っぽな人間ばかりだった。

最初こそ、鬱陶しかった。

俺に説教垂れるとか、コイツ何様とか。
俺の事なんも知らないくせに面倒臭い事言うな、とか。
うるさい、お前もどうせ。周りのヤツと一緒だろって。

でも、違った。

あの人だけは、俺の内側をしっかりと見てくれた。
唯一の、俺が帰ってこられる場所になってくれた。

腐っても、俺もアンタの息子だから。
あんたが今、本当に大事なものから目を逸らして
しまっていることに俺は気付けてる。

なら、息子として。
教えてやらないといけないから。
ニキ
ニキ
俺は、その人に見てもらうために、
この代表になる道を選んだ。
ニキ
ニキ
高い場所に行けば、その人も、
俺をずっと見てくれると思ってたんだ。
ニキ
ニキ
でも、真相はそうじゃない。
ニキ
ニキ
ずっと近くにいるんだよ、本当は。
ずっと前から、俺の傍にいたんだよ。
ニキ
ニキ
そうして俺をずっと見つめてくれてた。
なのに俺はまだ見てもらおうって、
そんな無茶なこと思って離れたんだ。
ニキ
ニキ
自分から、離れたんだ。
わかんないよな、なかなか。
気付けないと思う、俺も分かんなかった。

でも、本当にやりたいこと、したいこと。
それだけを望んでるって事がある人ほど。
周りが見えなくなって、大切なものを失いがちだから。

失う前に、気付け。
ニキ
ニキ
アンタの近くにもいるよ。
ずっと、ずっとアンタだけを見てる奴が。
ニキ  父
ニキ 父
……そんな奴、どこに…。
ニキ
ニキ
いっちばん近くにいたと思うけど。
なんかある度に駆けつけてくれたでしょ。
ニキ  父
ニキ 父
………。……!
ニキ
ニキ
アンタの隣に憧れて、
勉強の虫になってた、超優秀な。
ニキ
ニキ
俺の……唯一の、兄貴だ。
ニキ
ニキ
俺は離れてしまった場所に戻らないと。
ちゃんと向き合って聞きたい事もあるし。
父さんは俺の事を聞いて黙り込んだ。
そんな父さんを背中に決して振り返らないまま、
扉の前まで歩いていき、ドアノブに手をかける。
ニキ  父
ニキ 父
力。
ニキ
ニキ
……何?
ニキ  父
ニキ 父
ジョンソンを、ここに呼んでくれるか。
ニキ
ニキ
言われなくても、呼んでくるよ。
ニキ  父
ニキ 父
……そうか。
Sunoo  side
ソヌ
ソヌ
はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……!
駅から走って二十分。
マップアプリが教えてくれたビルの前に立ち尽くして、
ぐっと見上げると夕日が窓に反射して眩しかった。

ついた。ここで合ってるんだよね?

キョロキョロと周りを見渡しても誰もいなくて、
入口であろうと両開きの自動ドアの前にいる人達は
怖くて容易に話しかける勇気がわかない。

荒れていた息もだんだん落ち着いてきて、
それと反対にせり上がってくる緊張と不安。

え、これさ…来たはいいけど…会えるのかな。
そもそもニキ君がここにいるかどうかも確信ないのに、
勢いで走ってきちゃって…どうしよう…。

だって僕一般人だし?こういうのって…、
イメージだけど社員証とか首から下げてないと
中に入れてくれないやつじゃない……?

じっと扉の前に立つ強面の黒スーツの男の人を見つめて
その不安感が隠しきれないまま、一歩、一歩と小さく
じわじわ近付いていく。

気持ちなるべく目を合わせないようにしながら、
なんでもない風を装ってぴょっと入れたらいいなぁ、
なんて思いながら。
ソヌ
ソヌ
…………。
警備員
……あの。
ソヌ
ソヌ
ビクッ
警備員
ウチに、何かご用ですか?
ソヌ
ソヌ
あー……えっと…その……、
正直に言って、会わせてもらえるとは思えない。
何か無いか…何か…何か…うーん……。
ソヌ
ソヌ
!
待って、僕天才かもしれない。

急いでスマホのケースを外し、後ろに挟んでいた
大学の学生証を見せて、つらつらと言葉を連ねる。
コワモテ警備員さんはじっとそれを見つめて、屈んだ。
ソヌ
ソヌ
こちらの会社にいらっしゃる、
パク・ジョンソンさんの友人です!
ソヌ
ソヌ
今日の講義で教授から、
伝言を授かっておりまして…!
ソヌ
ソヌ
お伝えに来ました!
即興にしては割と上手い嘘のように聞こえる。
変に怪しまれないように、悪い事なんてなにもしてない
から当然入れてくれますよね?のスタンスで。

警備員はじっとしばらく学生証を見つめたあと、
少し迷ったように眉を寄せると、おもむろにポッケから
スマホを取り出して、何処かに電話し始めた。
警備員
ジョンソンさんの友人だと言う人間が、
エントランス前まで来ているのですが。
警備員
………君、名前は。
ソヌ
ソヌ
キ、キム・ソヌです!
警備員
キム・ソヌ、と名乗っています。
この時間がいっちばん緊張する。
多分、中の人に確認してるんだろうな。

あぁ、騙されてくれないかな…。
いや、友達は嘘じゃないもんね?
伝言なんて…微塵もないから…。

そこに触れられると、
警備員
…伝言を預かります。ご用件をどうぞ。
ソヌ
ソヌ
……。
詰み。

警備員は電話を切ってズンと僕の前に立ち直すと、
無愛想な切れ長の目で僕を見下ろして、冷たく言った。
どんな言葉よりも突き刺さって、身動きが取れない。

もちろん伝言なんてデマカセだから内容を考えていた
訳でもなくて、陰鬱な頭で必死に嘘を組み立てる。

でもどれも信憑性にかけるような事ばかりで、
結局どれも口に出すことができないまま時間が過ぎる。

あぁ、どうしよう。どうしよう。
突破できない、どうしよう。

ニキ君に、会えない…!
ソヌ
ソヌ
んぅ゛ぅぅ〜〜〜……



ニキ
ニキ
……ソヌヒョン?



ソヌ
ソヌ
!
声が、耳に届いた瞬間。
ぎゅうううっと胸が苦しくなって、肩に力が入る。

声のした方へ視線を送ると、ニキ君がびっしりと
記者会見と同じスーツを決め込んであんぐりした顔で
じっと僕の方を見つめていた。

あぁ、やっと会えた。
ソヌ
ソヌ
ニキ君…!
足が、勝手に動き出す。

ニキ君の方へ真っ直ぐ真っ直ぐ、走っていく。
ニキ君も嬉しそうに僕を受け止める準備をしていて、
それが嬉しくて、飛び込む勢いで駆け抜けていく。

警備員さんもニキ君の行動を見て僕を止めずに、
そのまま駆け寄らせてくれた。

ニキ君。ニキ君。ニキ君。

ようやくその胸に飛び込める距離になった時。


パンッ
ニキ
ニキ
っ?!
ソヌ
ソヌ
…。
ニキ君の左頬を、思いっきり引っ叩いた。
ニキ
ニキ
……は?イッタ。
すぅっと大きく息を吸いこんで。

頭ん中ごちゃごちゃだけど、
言いたいこと多すぎてめちゃくちゃだけど。
ソヌ
ソヌ
もう!!何考えてんの!!!!
ニキ
ニキ
ビクッ
ソヌ
ソヌ
どうしてこんな大事な事
話してくれなかったの?!
ソヌ
ソヌ
ずっと最近出かけていくなぁって!!
思ってたけど!!こんな事なんて…!
ソヌ
ソヌ
こんな事になってるなんて、
誰が想像できるのさ!!!
ニキ
ニキ
……ごめ、
ソヌ
ソヌ
勝手な事ばっかり!!
急にいなくなるし!連絡つかないし!!
ソヌ
ソヌ
出て行く時もあれ何?!
行ってくるって言葉足りないよ!!
ソヌ
ソヌ
いつ!!どこに!!なんのために!!
いつ頃帰るのか!!報告いるでしょ!!
ニキ
ニキ
…………。
ソヌ
ソヌ
どれだけ僕が心配したと思ってるの?!
どれだけ僕が不安だったと思って…!!
ソヌ
ソヌ
もうっ、グスッ、ニキ君、なんてっ…!!
知らないっ…!!好きに、すれば?!
ソヌ
ソヌ
それだけ、グスッ、言いに来たの!!
じゃあね?!元気、グスッ、でね!!
ニキ
ニキ
…待ってソヌ。待って。
立ち去ろうとした腕がくんと引き戻されて、
あっという間にポスンとニキ君の腕に収まる。
ふわりと香るキツめの香水が鼻を掠めた。

こんなにイライラしてるのに、あんなに怒鳴ったのに、
抱き締められただけで心から安心して力が抜ける。
ずっとこうして欲しかったって気持ちが溢れ出す。

ニキ君は後ろから僕を抱きしめたまま弱々しく、
謝罪の言葉をポソポソとこぼした。それを聞きながら、
もう正直なんでも良くなってる自分がいて。

会いたかった。会えた。抱き締めてもらえた。
ニキ君の匂いがする。ニキ君が僕のそばにいる。

ニキ君が、いる。

その事実が涙をどんどん止まらなくして、
ついに何も言えないほど喉が詰まって苦しい。
ニキ
ニキ
……ごめんね。ソヌ。
俺が全部悪かったから。
ソヌ
ソヌ
……っグスッ…グスッ……、グスッ……、
ニキ
ニキ
もう、離れないから。
ずっと一緒にいるから。
ソヌ
ソヌ
嘘…っグスッ……ば、っかり…グスッ
ニキ
ニキ
本当だよ。ソヌの傍にいるよ。
クルッと体が回されて、ニキ君と向かい合う。
ニキ君は酷く優しい顔をしていて、僕の頬をそっと
撫でて涙を拭うと、優しく触れるだけのキスを落とす。
ニキ
ニキ
俺、代表降りたんだ。
ソヌ
ソヌ
……え?
ニキ
ニキ
俺は、代表にはなれない。
俺よりもっと…兄貴の方が優秀だから。
ソヌ
ソヌ
……そっか。グスッ、確かに?
ニキ君より、成績いいもんね?
僕のその言葉にニキ君は分かりやすく眉を顰める。
その顔が可愛くて思わず笑ってしまう。寄った眉間を
指でくんと押すと、その手をぐっと握られてしまった。
ソヌ
ソヌ
んふ、ごめんごめん。
ニキ
ニキ
あのさ…聞きたいんだけど。
ソヌ
ソヌ
ん?
ニキ
ニキ
なんでそんな、
俺の兄貴の事、知ってんの。
ニキ
ニキ
そんなに、兄貴がいい?
兄貴が、いい?
………って、どういうこと?え?

ニキ君が言ってる意味が全く分からなくて、
思わず自分でも目が丸くなるのが分かった。

ニキ君は不機嫌そうに目を伏せながら、
僕が話し出すのを待っているようだった。
ソヌ
ソヌ
ニキ君のお兄さんって…、
パク・ジョンソンって名前でしょ?
ニキ
ニキ
………うん。
ソヌ
ソヌ
僕の大学の友達、
パク・ジョンソンなんだよ。
ニキ
ニキ
…………は?
ソヌ
ソヌ
だから、ニキ君のお兄さん。
僕の友達なんだってば。大学の。
ニキ
ニキ
……っは?!
そう言ってさっき慌てて出した学生証を差し出す。
ニキ君は今まで聞いた事がないような驚いた声を
出して、僕から学生証を奪い取る。

そうしてじっと内容を確認して、僕の顔を見た。
…なんか悪い勘違いしてたんだろうな、この子。
それを瞬時に理解して、苦笑いがこぼれる。
ニキ
ニキ
……っはぁ〜〜…。
ニキ君は全てを理解したのかヘナヘナとその場に
座り込んで、大きなため息を着いてしまった。
僕はただ呆然と、それを見つめる。
ニキ
ニキ
……じゃあ、ソヌが俺の兄貴の事聞いて、
必死になって色々調べてたのは…。
ソヌ
ソヌ
僕、友達の事は知りたいタチなんだよ。
何か助けられるような事はあるかなって。
ニキ
ニキ
兄貴に近付こうとか…、
……そういうんじゃなくて、単純に…、
ソヌ
ソヌ
友達だったから…?
ニキ
ニキ
……っはぁ〜〜〜〜…もう……。
何かの、誤解が解けた感じ…?

ニキ君が繰り返しため息を漏らしながら頭をガシガシ
搔く様子を見つめて、僕も頭をポリポリと搔いた。

なんか、やっぱり変わってないな。

会見動画みた時はなんか大人っぽくなったなぁなんて
思ってたけど、実際会うのって凄く大事だと思った。
全然、なんにも変わってない。頭の先から爪先まで。

ニキ君の、ままだ。

思わず頭を撫でると、ペッと簡単に払われてしまって、
ますますニキ君って感じて思わず笑ってしまう。ニキ君
はそんな僕を睨みあげて、不機嫌そうに眉間を寄せた。

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