Side 未余
視界がゆっくりと広がっていく。
尋常ではない状況のはずなのに、自分がそこにしっかりと存在しているという実感が不可思議に、確かにあった。
目を開けると、目の前に広がっていたのは「水」だった。
海水が、目の前でふよふよ浮いているのだ。
砂利のざりざりした感覚も、海水の中にいる時の浮遊感もある。
上を見上げると少ないがちらほら魚も見えるし、すぐ側には海藻を根を広げているようだ。
…なのに、苦しくない。
目に水が入ってくる気配すらなかった。
ただ、地面に立っているのと変わらぬ、自分の質量だけを感じた状態にいた。
あり得ない状況と、耐え難い違和感に、初めて感じる感情を見出す。
恐怖と、混乱と、怯えと、違和感と、好奇心。
それらを混ぜ合わせた、禁断の思い。
そんな異質な感情を見出した瞬間、気付いてしまった。
…ここは地獄だと。
帰る方法も、ここがどこなのかすら、全く浮かんでこない。
ここまで希望が見いだせない環境が初めてで、吐き気がするくらいだった。
私達の言葉は、まるで海の中に溶けていくような気がした。
Side いこな
ここが何かも、どこかも分からない海の中。
その光景は360°全スクリーンの海中体験を彷彿とさせた。
…そういえばあそこも3人で行ったんだっけ、なんて思い出を少しだけ思い出して現実逃避に走り出す。
一度目を瞑って見ても、目の前はやっぱり水だった。
ここから私は、どうするのが正解なんだろうか。
海中に生えている海藻に、少しだけ手を当てて考える。
…当たり前のように、海藻の薄い手触りが私の手を覆い尽くした。
さっきは気付かなかったが、周りを見渡すと部屋が複数個存在していたのだ。
部屋だけ切り取られた様に、ドアとネームプレート、壁だけが剥き出しになっている。
〚図書館〛〚広場〛〚実験室〛それから…
文字がもう読めないネームプレート付きの、一際大きい扉があった。
…正直、めちゃくちゃ怪しいと思う。
図書館のネームプレートが貼ってあってすら、中の確認は出来ない。
入って、悪い方向に向く可能性の方がどこまでも高い。
そう、私達には選択肢が無いのだ。
図書館に入るか、広場に入るか、謎の部屋に入るか。
そんな嫌な選択肢だけを、押し付けられている。
…でも、私はまだ独りじゃない。
未余も、雪夢もいる。
何かあれば、3人で悩める。
1人で孤独に消えていく必要なんて、2人がいる限りないのだ。
私は2人の方へ振り向いて、そう言ってみせた。
時間遅くなりました…すみません…












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!