一時間目の終わり、教科書をしまおうとして机を引いた瞬間、一人の女子にガンッと足をぶつけられた。
わざとらしいその笑顔に、私はにこっと笑い返す。
──── 嘘だよ。
わざと蹴ってきたの、ちゃんと分かってる。
その顔、目、トーン。
どれも優しさの欠けらもないって、分かってる。
でも、笑う。
大丈夫なふりをする。
それが今の、私の “ 役割 ” だから。
昼休み、靴箱に行くと、片方の上履きがなくなっていた。
教室に戻って、何も言わずにスリッパのまま過ごす。
先生に見つかっても、涼介や裕翔に聞かれても、
「 足、ちょっと痛めちゃって 」とだけ言ってごまかす。
嘘をつくのはもう慣れた。
友達に誘われたけど、丁寧に断った。
いじめてくる人達が近くにいたから。
笑顔はいつも通りに。
目は少しだけ伏せて。
その頃 ──────────
教室の端っこでスマホをいじっていた中島くんがふと顔を上げて言った。
二人の会話を聞いて、視線を落とす有岡くんがいた。
────── あの時の、あの表情。
普段の毒舌混じりの笑いじゃなかった。
どこか、ひどく弱った顔に見えた気がしていた。
数日前の放課後。
部活の仮入部が始まっていて、皆ばらばらに動いていたその日。
私は誰にも気づかれないように、校舎裏の階段に向かった。
自販機の横のちょっとしたスペース。
誰もいないと思ったら、足音が聞こえた。
大ちゃんだった。
いつも通りの優しい声。
けど、その声を聞いた瞬間、胸の奥がざわっとした。
笑ったつもりだったけど、口の端が思うように上がらない。
大ちゃんは、パンを取り出して、私の隣に腰を下ろす。
そこでようやく、少しだけ口角が上がった。
....... でも、大ちゃんの目が笑っていなかった。
一瞬、胸がキュッと締め付けられる。
バレそう、って思った。
でも ──
私はまた、笑った。
それがどれだけ “ 演技 ” でも、
この人にはバレないようにって、必死に。
大ちゃんはそれ以上何も言わなかった。
でも、パンを食べる手が止まっていた。
それだけで、何となくわかってしまう。
彼はきっと、
私の “ 嘘 ” に気づいてしまった。


















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。