夕飯を食べて、食堂から部屋へと戻る帰り道。
もう夜も更けて、窓の外は闇の帳がかかっている。
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カツ、カツ、と、長い廊下に足音が響く。
当たり前に校舎には誰もおらず、電気も消えていた。
この暗さでは、忘れ物なんて探せやしない。
…と、なると
小声で呪文を唱えると、足元が明るく照らされる。
授業で習った基本魔法も少しは役に立つな。
そのまま教室まで歩いて、無事忘れ物を見つける。
と、思ったその時。
ガタガタガタッ!!
呼びかけてみるも、何も返事は無い。
広い廊下に僕の声だけが反響する。
より明るくなった地面。そこには…
ズル、ズル、ズルズル。
布を引きずる音が、徐々にこちらへと近づいてくる。
目の前に現れたのは…人間、の男の子…?
サラリとした黒髪に翡翠の瞳。頬には、いくつも連なったホクロ。
好青年、とも呼ぶべき見た目の彼は、血塗れで僕の前に立っていた。
校舎にいるということは学校関係者なんだろう。だが、僕は彼を見たことが無かった。
伊沢拓司。「生徒施設会」と呼ばれるこの施設を取り纏める係でトップの会長を担い、この学校で最高クラスの15クラスに属する先輩だ。
成績優秀で戦場へ何度も出向き、高成績を残している彼は、学校で知らない人は居ない程の有名人。
…でも、なんで彼がそんな伊沢さんのことを…?
…こういう場合、名前なんて重要な情報を初対面の人に教えてはいけない。
でも、その時の僕は、まるで口から滑り落ちるかのように教えてしまっていた。
爽やかな笑顔でそう言われる。
…なんだか変な気分だ。
…何を急に言い出すんだ、彼は。
そんなことあるわけ ───
…あ、った。
この問ちゃん?という彼の予言通りに急に現れた伊沢さんは、ひょいっと問の襟元を掴んで担ぎあげてしまった。
流石生徒施設会会長、といったところ。
決して少なくはない全生徒の名前を、クラスまで完璧に覚えているのだろう。
さらっと俺の名を当てた後、華麗におやすみを残していった。
そう言い残して、賑やかそうに(というより騒がしく)しながら、2人は長い廊下へと消えていった。
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部屋に戻って、頭がすっぽり埋まるほど布団を被る。
…どれだけ寝ようと思っても、血塗れの彼が僕の頭から離れてくれなかった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!