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第1話

うららかな(fmy)※
97
2024/04/07 03:00
※嘔吐あり
設定 あなた:持病もち、服薬治療中

あなた視点
 お風呂から上がった後、ぽやぽやとしたままキッチンに向かい水を汲んだ。テーブルの上に置いてあった白い錠剤を口の中に放り込んで水で流し込む。口内に苦いとも甘いとも変な味が広がった気がして思わず顔を歪める。
「へぇ。お前ってそんな変な顔するんだ。」とふみやくんに言われてムッとする。
「仕方ないよ、不味いんだから。」
そう言いながらリビングのソファに座る。まだ残っていた作業を片付けていると、胃のむかつきを覚えた。一度手を止めてソファに横たわる。
「いつもの?」
「うん、すぐ治るから。」
「気持ち悪くなるなら飲まなきゃいいのに。」
「元気な時は毎日飲まなきゃダメなの。わたしだって嫌だよ。」
ふみやくんは「ふうん。」と一言漏らして隣に座り、小難しそうな本を読み始めた。ぱらり、ぱらりとページがめくられる音が私を眠りへと誘った。いつもならこんな早い時間に眠くなることなんてないのに、と。わずかな違和感を覚えたまま睡魔に身を委ねた。

「……。あなた……?あなた、起きろ……」
次に目を覚ました時、私の視界にはふみやくんの顔が映っていた。窓から差し込む朝日に照らされて紫に鈍く光る瞳に見つめられ、強い不安を感じる。それに、体が嫌に熱く頭もガンガンする。何があったのかと考えを巡らせていると
「お前、大丈夫?……急にゲロ吐くからびっくりした……。」
と言われて初めてあたりに漂う異臭に気づく。そしてそれが自分の口元から発せられているのだと分かった。ゆっくりと体を起こすと、原型を留めていない夕飯がソファを汚していた。吐瀉物がべっとりついたのを見て、申し訳なさが生まれる。
「あ。ご、ごめ……ん。」
「俺は、別にいいけど。……まだ気分悪い?しんどい?」
「い、や。もう大丈夫。……まあ、ちょっと頭痛いけど。それじゃ、これ片付けるから……」
と立ち上がろうとする私の両肩をふみやくんがソファの背に押さえつける。良からぬことを考えているのだろうかと思っていたら、案の定「依央利に掃除させるから。」と言う。確かに依央利さんなら文句の一言も言わずに片づけをしてくれるだろうが、それでは本当に申し訳ない。なんてことを思っているとふみやくんは私を雑に抱えて歩き始めた。
「……ちょ、どこ行くの……。」
「え、お前の部屋に決まってんだろ。」
なんだかこっ恥ずかしくて申し訳なくてその腕から逃れられないかと身をよじろうとしても力が入らない。……動く気力がない。ぼすん、とベッドに寝かされ、
「お前さ、今具合悪いの分かってる?分かってんなら寝たほうがいい。」
確かに元気とは言えないのでぐぅの音もでなかった。言われるがままにベッドに横になるとドアの外側から理解さんの声が聞こえた。もう5時半になってしまったのかと、すっかり明るくなってしまった空を窓越しに見つめているとなんだか胸の奥が切なくなった気がして掛け布団をぎゅっと握りしめた。
2024年4月7日

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