いじめ、って。
そんなことは分かっている。
別に私だって馬鹿じゃない。
良識のある両親の元で育てられて、愛されて生きてきた私なのだ。
虐めが良くないことだと言われていることは知っている。
しかしルイーズを蹴落とすためなら、どんな手段も厭わない私である。
もし、
もし実力で、彼女には一生敵わないと悟ってしまったら、
そのうちやるだろう。
時々自分が怖くなる。
でも愛されたい。
もうそこだけは譲れない。
私を不幸にするやつは許さない。
殺してでも幸せになってやる。
そして、
私を支配しようとするこの男。
まずこいつから、
排除する。
もうこいつに、愛想笑いも嘘も愛嬌も、何も使う必要はない。
無駄に表情筋を動かしたくはないし、もはや攻略対象外の人間に気を使う意味もない。
とにかく彼から離れるため、私は新兵訓練所へと向かった。
近くにいると疲れる。
いや、気を使うのも確かに疲れるが、心の中を覗かれる方が嫌だ。
ああくそ、自分だって自分を作って生きてるくせに、私には指図するなんて。
本心を隠したら楽に生きられるというのは、誰だって同じじゃないか。
しかも私は、それに言い返せる立場ではないのが一番悔しい。
嘘は罪じゃないのに、なんで私はあの男の下につかねばならないのだ。
絶対にあいつ、自分は受け入れられていると思って調子に乗っている。
自分はここの仲間たちに愛され、理解されているんだと思ってる。
確かにこの国の、仲間の絆は厚い。
でもそれは結局、少しヒビを入れることさえ出来たら簡単に破壊できることを、
他の共同体には属したことのない…否、属せなかった彼には分からない。
あんな性格だから、どうせどこにも居場所がなかったところ、
最後に行き着いたのがここだったのだ。
だから、仲間の絆というものが、一般的にはどういうものなのか知らない。
相場を知らないのだ。
その点、私は違う。
心から仲がいいと言える人間いなかったとも言うかもしれないが、
私はここに来るまで、何度も共同体を変えて生きてきた。
だから知っている。
共同体の壊し方も、壊され方も。
その中の一人だけ引き抜く方法も、爪弾きにする方法も、
輪の中に入る方法も、綺麗さっぱり出る方法だって知ってる。
私はまた、別の仲間を見つけられるが、
チーノさん…いや、もうさん付けもいらなくなるかな。
チーノはここを出されたら、きっと心に深い傷を負うだろう。
そういう意味で、私は彼に確実に勝てる武器を持っているわけだが、
そうだな、まず爪弾きにしてやろう。
そして、自分から出させるんだ。
私が裏で糸を引いてるとは、絶対に悟られぬようにして、
ずっと彼の味方でいるふりをしていよう。
そしたら何かあっても、私が咎められることはなくなる。
それどころか、チーノを依存させて利用することができるかもしれない。
他の幹部に虐めさせる…?
いや、それはダメだ。
利用できなくなる。
私に不都合があったとき、いつでも呼び出すことができるようにしておきたい。
流石に、元仲間とはいえ、自分を虐めてきた人間のいるところには来ない。
だから、チーノが独りでに出ていくように、どうにか仕向けなければ。
後ろめたい思いを作る…とか、か。
そんなことを考えていたら、訓練所についていたので扉を開ける。
今は夜。
さすがに新兵たちにも疲れが出てきたのか、昼間より動きが鈍い。
私が入室したことに気付いた数人が、周りに声をかけて整列させた。
なるほど、結束力はあるようだ。
そして、黙って前に立つ私に挨拶をすると、そのうちの一人がこう言った。
なるほど。
これは、これは。
計画通り!
新兵たち、こんな生ぬるいことで、満足してくれるなよ。
もっと向上心と反骨精神がないと困る。
そうだそうだ、と後ろの方からも賛成の声が聞こえてきた。
素晴らしい、私がより酷い扱いをするまでもなく勝手に団結してくれた。
私を全員で敵とみなして、抵抗をし、自由を勝ち取ろうと言うのだ。
いい、いいぞ。
これで、新兵内での虐めや事件はなくなったはずだ。
バレていたか、とでも言うようにざわざわし始めた。
頑張ったものに給料が多く入るのは、それは当然のことだと思う。
逆に怠けている者が報われないのも、当然のことである。
体が弱くて昇れない?
それならルールに従ってやめてしまえ、戦場で役に立つこともなく死ぬだけだ。
国に忠誠を誓っているから、弱くて昇れない状況でもやめたくない?
そんなに死にたいなら、今すぐにでも部隊を見つけて推薦してやる。
特攻隊、とかな。
どうやって彼らの実力を見せてくれるのかは知らないが、
とにかく私に対する反抗心とともに、仲間の意識が芽生えているのは確かだ。
これも私の計画の内だということを、彼らが知る由もないが、
これで自主性も高まって、私が口を出す必要がなくなる。
私に時間ができる。
と、いうことは。
チーノを追い出す準備が捗るわけだ。
実に良い。
総統補佐なんかについていたら、こんなこと考えることも出来なかっただろうし、
やはりこちらに来て良かった。
自分の選択を賞賛しながら、私は新兵たちが訓練に戻るのを見ていた。
まず、したいことだ。
チーノをここから追い出す。
その過程で、私だけが彼の味方になれる状況を作り出さねばならない。
虐め以外の方法で。
それにより、チーノは私を咎めず、寧ろ依存して利用できるようになる。
そのためには、彼自身に、ここにいることへの後ろめたさを感じさせる。
何か重大なミスをさせるか。
誰かを守りきれず、傷つけた、とか。
…計画は決まった。
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![[参加型?]空の上で最後の遺言を、](https://novel-img-gcs.prepics-cdn.com/prcmnovel-tokyo-prod-converted-images/p/fLidrLhRSUUik4ZkTr7M83BhU0V2/cover/01KCTXMWS5RZ2WT40YN9XJ0C3Y_resized_240x340.jpg)



編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!