第3話

2話 人外の少年
4
2025/10/17 14:35 更新
悠斗の部屋は、六畳一間のアパートだった。
大学進学を控えた春、家庭の事情で一人暮らしを始めたばかりだ。贅沢はできないが、自分の居場所としては十分だった。

その夜、梨玖は悠斗のベッドの端で丸まって寝ていた。角と尻尾は、薄い布団からほんの少しはみ出している。

悠斗は、勉強机に向かいながら、ふと少年に目を向けた。
藍崎あいざき悠斗ゆうと
(こんなに小さいのに…何をされたんだ)
段ボールの中にいた少年の身体には、小さな痣がいくつもあった。明らかに「捨てられた」存在だった。

なぜそんなことが平然と行われるのか。
なぜ、人外というだけで、命の価値が下がるのか。

悠斗には、どうしても納得がいかなかった。
梨玖りく
パチッ
眠っていたはずの少年が目を開けた。
藍崎あいざき悠斗ゆうと
起こしたか?
梨玖りく
フルフル
お風呂に入り、温かいご飯を食べていると、少年が話しだした。
梨玖りく
こぉ、いてぇ、いいぉ?
藍崎あいざき悠斗ゆうと
(“居ていいの?”か…)
藍崎あいざき悠斗ゆうと
いいよ。俺が言うから間違いない
その言葉、少年が悠斗を信用するためには充分な言葉だった。
藍崎あいざき悠斗ゆうと
あ、名前なかったんだったか。うーん…
梨玖りく
藍崎あいざき悠斗ゆうと
りく…梨玖…!
梨玖りく
りぅ…りく?
藍崎あいざき悠斗ゆうと
あぁ。今からお前は梨玖だ!
自分の存在を認め、名前まで付けてくれた悠斗に少年…梨玖は心を開いたのか嬉しそうな笑みを浮かべた。

次の日、二人は簡単なルールを決めた。

・学校や近所には梨玖の存在を隠すこと
・名前を出さない、顔を見せない

それは、まるで逃亡者のような日々の始まりだった。

けれど、それでも――
梨玖りく
ごは…ん、おいし…かった!
藍崎あいざき悠斗ゆうと
まじ?よっしゃ!
世界に背を向けながらも、二人の間には、確かに温もりがあった。

そして悠斗は気づき始めていた。

自分が温もりを与えているつもりでいて、実は――
温もりを与えられているのは、自分の方かもしれないと。

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