玲華は鍛錬後、総長室を訪れた。
程なくして返事が来る。
失礼します、と告げて総長室の重い扉を開くとそこに雲隠龍夜の姿は無かった。
いつも彼が座っている椅子はもぬけの殻である。
だが玲華は動揺の欠片も見せず、淡々と告げる。
その声にどこからともなく姿を現した龍夜は、開口一番に呆れの言葉を漏らした。
先程とは打って変わって真剣な表情になる龍夜は、そこだけ見れば総長と呼ぶにふさわしい迫力があった。
艶のある赤い短髪と瞳はまさに正義のヒーローとでも言えよう。広い肩幅は男らしく逞しい。
龍夜は少し意地悪げな顔で玲華に問う。
総長がここまで素直に褒めるのは軍の中でもほんの一部だ。それに加え他の者から反感を買ったりすることが無いよう、相手と二人きりの時にしか言葉にしないので、さらに限られた少数となってくる。
それでも、玲華は破顔する事も無くただただ真っ直ぐな視線で龍夜の言葉を受け止めていた。
龍夜は、自室へ戻るのだろう玲華を部屋から消えた後もその残像を見ていた。
思わず嘆息する彼は、疲れきった表情であった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。