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第4話

2. ヴィラン
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2026/02/11 04:00 更新
























戦場に降り立った瞬間に感じたのは____








煙の匂いだった







建物が燃えた焦げ臭い匂い





鉄と埃が混じったような…胸の奥に残るような嫌な匂い







それから…遅れて届く"声"







痛みに呻く声、啜り泣く声、酷い痛みに獣のような声で泣く…若い少女たちの声





あなた
………最悪ッ…




舌打ちと同時に漏れ出た苛立ちや嫌悪感に塗れた己の声





なるべく足音を立てないように…この地獄を作り出したヤツに気配を悟られないよう進む






足を進める度に、徐々に大きくなっていく少女たちの声






無意識のうちに眉間にシワがよっていく






視界に"それ"を映した瞬間___







酷く不愉快な焦げ臭さや血の匂いなんて、どうでも良くなった





.
は…ぁ"あ"…ぃ"た"…




この地獄を作り出した"悪"に挑み、敗れてしまった少女が、倒れていた





否、その少女だけでない






.
う"ぅ…あ"…

.
や"だ…負けた"ら…






鮮やかな、パステルカラーのフリルたっぷりの魔法少女のコスチューム





女の子の憧れが詰まったもの






そんな可愛らしいコスチュームは彼女達の血で真っ赤に染まり、所々切れたり土で汚れたりとボロボロの姿の少女たちが倒れていた







あなた
っ……




小さな小さな少女たちの身体をボロボロにしたヴィランに怒りが湧くも、ぐっと呑み込んで少女たちに近づく





あなた
大丈夫、ゆっくり呼吸して




すぐ近くで倒れて浅い呼吸を繰り返していた少女の額に手を乗せて、落ち着かせるために優しく声をかける





.
ぁ…




少女の小さな口の端から溢れ出る"紅"





虚ろだった瞳に私を映したその瞬間





.
ごめん、なさいっ…ごめっなさ…ゲホッ…ごほっ…
.
また…負けちゃっ…勝てなかっ…た、ゲホッ…

.
ごめなさっ…勝てなくて…ごめんなさいっ…弱くて…
.
ごめんなさい…ごめんなさい…っ、ゴホッ…




痛む身体に気づいていないのか、気付かないふりをしているのか





ボロボロの、立つのさえキツイ身体を起こして、私の肩に掴みかかるような形で謝罪を繰り返す目の前の少女







恐怖に震える声で、必死に謝罪を繰り返す少女を目の前にすると、舌打ちが零れそうになるのを必死に堪える





あなた



これが、魔法少女だ







ヴィランを討ち取れば身から溢れんばかりの賞賛を、栄誉を





ヴィランに敗北すれば、気持ち悪いくらい褒め讃えていた口から心が壊れるくらいの罵倒の言葉が飛んでくる






自分たちがどれだけ小さな存在に守られているのか






自分たちがどれだけボロボロな存在に心が潰れるほどの罵倒をしているのか、きっとあいつらは知らないし、知るつもりもないだろう





あなた
…もう、大丈夫
あなた
あなたはよく頑張った




世間が知ろうとしないなら、彼女達の痛みや血反吐を吐くほどの努力を知ろうとしないのなら…せめて魔法少女だけでも肯定しなければ




あなた
どれだけ痛めつけられても立ち上がったんでしょ?
あなた
どれだけ痛くても守ろうとしたんでしょ?



涙でゆらゆらと揺れ大きく見開かれた少女の瞳



あなた
大丈夫、もう大丈夫だから
あなた
あなたはもう休みなさい
 
.
でも…っ!ゲホッ…、あいつは…

あなた
大丈夫
あなた
そのために、私が来たんだよ





魔力を巡らせて、魔法を発動させる





その瞬間、眩しいほどの光が傷だらけの少女たちを包み込み、この地獄から安全な場所へ転送する




あなた
( 協会の医療機関だから… )



もう大丈夫だろう







先程までボロボロの少女たちが倒れ込んでいた地獄を、通り過ぎる





きっとこの先にいる







この地獄を作り出した"悪"が














荒れ果てたこの場所は、もはや"街"としての役割を放棄していた





折れ曲がって焦げた標識。もう光ることのない沈黙した信号機。埃や瓦礫が積もる路上







そして______








まるでガラクタのように無造作に積み重ねられた"魔法少女"たち





その誰もがか細いながらも呼吸をしているが、少女たちの細い体は傷だらけでもう立ち上がる力すら残っていないのだろう






その"山"を踏み台にするように、一人の"男"が立っていた





ゴーグルの奥で彼の目は静かに細められた






形の良い口元を愉快そうにニヤリと上げ、喉の奥から抑えきれないと言った様子で笑いが零れ始める









来た。あの子が、俺の、俺だけの魔法少女が






姿は見えない。けれどわかる。





俺があの子の魔力を間違えるわけがない。ゆっくりだがこちらに近づいてきている





やっと…来てくれたねあなた




震えた声から滲み出るのは、愛しい人が会いに来たという喜びだろうか




胸の奥が、ジワジワと熱を帯び始める






嬉しい、嬉しい、嬉しい。





あと少し経ったら目の前に姿を表すだろう愛しい人の姿を思いながら、男は周囲をぐるりと見回す






倒れている魔法少女偽物たちを、冷めた目で見据える





彼女たちは魔法少女じゃない、偽物






あの子が、俺の愛しいあの子だけが魔法少女だ






足元に転がっているのはただの"舞台装置"






あの子を輝かせるためだけの、必要な装置だ






俺みたいな"悪"がいるからさ




誰に聞かせるでもなく、独り言のように呟く





君は、正義でいられる




彼女正義が輝けるのは、絶対的悪がいるから






光が強く輝けば輝くほど、影もより濃く強くなる






この光景を見た彼女はどんな反応をするんだろうか







俺に対して怒りを覚える?それとも惨い姿の偽物たちを見て心を痛めて泣く?それとも___







絶望して、今度こそ俺に堕ちてくれる?











あぁ本当に楽しみだ…






早く、早くこっちに来て
























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