第20話

③ピアスとフーディ🐰
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2024/02/04 12:56
②の続き















『お、お取り込み中すみませ〜ん・・・スマホ忘れて取りに来ました〜・・・。』




さっき帰ったはずの私のチームメイトが、練習室のドアから顔を覗かせていて目が合った。





嘘でしょ?!


今鳴ってるスマホ??





この感じ・・・絶対ドア開けてしばらくしてから声かけたよね??




あーもう!


視界いっぱいにミノがいて、開いたドアにすぐ気付けなかった!!




ミノは背を向けているけど、この状況は理解できているよね?多分。




着信音は鳴り止み、時間まで止まったみたい。




・・・どうしよう。




聞かれた?


見られた?


全部。




しかもドアの外に目配せして、口パクと身振り手振りで誰かと話してるっぽいし。




時間的に、この後この部屋を使うミノのチームメイトが来てる可能性まである。




ミノの片手は私の手を握っていて、もう片方の手は私の頬にあと数ミリのところで固まったまま。






『失礼しました〜・・・。』






チームメイトがスマホを取って、そろりそろりと練習室から出ようとしてる。



静かに歩く意味ないから!




あーーー明日からチームメイトの顔見れそうにない。



どうしよう、私の人生どうなるの???




おしまいじゃない???




ミノの手は熱いのに、私の体温はどんどん下がってる気がした。




どうせなら、私はこのまま冷たくなって天国か地獄に・・・



































「あなた、好き。」




























「『え?』」











待って。







ミノ??








私のチームメイトも『え?』って言ったよ???








今言うの???









っていうか好きって言った??










下がっていた体温が、一気に上がる。








「あなたのこと好き、僕の彼女になって。」



「それ今言うの?」








頭に浮かんだことをそのまま声に出した。






「うん、もうこうなったら開き直るしかないでしょ。ここにいる奴、みんな聞いておけって思って。」



「な、なるほど?」






意味がわからないけれど、一歩も引けない状況なのはミノだって同じだ。






「ねぇあなた、お返事は?」







ほんの少し、赤い耳。




整った顔立ちのせいで自信満々に見えるけど。




私に向けられた大きな瞳が、どこか不安そうに揺れている。









「よ・・・よろしくお願いします・・・。」







「ほんと?夢じゃない?」









触れる寸前で止まっていたミノの手が、私の頬を優しくつねった。





「痛いよ、自分のほっぺでやって。」





全然痛くないけど言わせてほしい。




するとミノは、その手で私の頬を優しく撫でてくれて。






「ごめんごめん。ありがとう。」


 



ふわふわした優しい声。






なにそれ。




めちゃくちゃ柔らかく笑ってる。




いろんな意味でくすぐったいってば!!






思い詰めたようにずっと私の手を握っていたミノのもう片方の手から、すっと力が抜けて。




そしてまた、しっかりと私の手を握ってくれた。




さっきまでの強張った感じとは違う、優しい力強さで。











視界の端に、スマホを取りに来たチームメイトが『死ぬ死ぬ』と叫びながらドアから出ていったのが見える。





その直後、部屋の外が少し騒ついて、ミノのチームメイトたちの雄叫びも聞こえてきた。




あー、隠しようがないやつだなこれは。






「あ、僕もあなたから好きって言われたい。後で聞かせてくれる?」



「え?あとで?」





なんか今、サラッとすごいこと言われた気がする。





「僕今から練習だけど、ここ借りてる時間いつもより短いから。あなたはこの後予定ある?」



「・・・ない。」



「じゃあ近くのカフェとかで時間潰してて?奢るから。」



「ハイ・・・え?いいの?」



「ん、終わったら連絡する。カトク教えて。」







スマホを取り出して下を向いたミノの顔が、嬉しそうにニヤけてて可愛い。




あれ?あ、そっか。


私たちお互いの連絡先知らなかったのか。






『知らなかったのかよ!!』






練習室の外からミノのチームメイトの野太いツッコミが聞こえた。




なんだかおかしくなってきて、私は笑いを堪えながら連絡先をミノと交換したんだけど、実は涙もちょっと出たんだよ?





嬉しくて。




「隣のカフェなら今空いてそうだけど?」なんて言いながら、ドリンクチケットをいきなりたくさん送りつけてくるから通知がミノだらけ。





あ、あの店の常連だもんなこの人。





デザートのチケットまで送ってるじゃん。





必死に私を引きとめてくれてるみたいで、勝手に嬉しくなってしまう。





こんなにたくさん送らなくていいからとミノを止めて、お礼を言って、私は隣のカフェへ向かった。








ドアのすぐそばに群がっていたみんなにからかわれながらスタジオを出るの、恥ずかしかったな。




この後チームメイトと練習するミノ、メンタル強すぎじゃない?




思い出したみたいにフーディ被って顔隠して、外で盗み聞きしてたチームメイトのお尻を片っ端から叩いて誤魔化してたミノだけど。



すぐに全員から倍の力で叩き返されてて面白かった。














私は小走りでカフェに入って、ドキドキしたまま注文した。





ミノに奢ってもらった冷たいカフェラテを飲みながら、これまでのことを思い出す。







両思いだったのか、私たち。






絡まったピアスを直してもらって、自分の気持ちに気付いて。




ミノのダンス見ながら勉強して、みんなに褒められるようになって。





嬉しくて本人に伝えたらなんか変な感じになったけど、まぁそっか。





普通、色気のあるダンスを学ぶなら、まず最初に同性のダンサー見て勉強するよね。





あ、今思えば、チームメイトのお姉様方に教わればよかったか。





でも、ミノしか思いつかなかったんだもん。










"あなたが諦めた方法で、いろいろ教えてあげられるんだけど?"









チームメイトが入ってきたせいで、うやむやになったミノの言葉。





諦めてたのに、ミノが彼氏になってくれるなんて思わなかった。





最近仕事の幅が広がって忙しそうなミノが、遠い存在になってしまいそうで怖かったんだよ?






てか、いろいろ教えてあげられるって・・・。





これは深く追求しちゃいけないやつだよね?





ミノ先生、何を考えていたんですか??


何を教えてくれるんですか???





だめだめ、考えるな。



この後また会うんだよ?






ミノはこれからも、想像の斜め上を行って私を驚かせてくれるのかな。



デートとかするのかな、私たち。



あの日以来、大切にしまい込んでるあのピアス。



2人で会う時に、つけて行こうかな。




それとも、いつか。




たとえば、キラキラ揺れるピアスのチェーンのように。




色っぽくしなやかに踊れるようになったなら。




あのピアスをつけたままミノの前で踊って見せて「ほら、チェーン絡まなかったでしょ?」ってドヤ顔決めてやりたいな。




スローテンポの曲ならいけるんじゃない??





うわっ、可愛げのない彼女w




・・・彼女か。




私、ミノの彼女になったんだ・・・。





そんなことを取り止めもなく考えながら、スマホに追加されたミノの名前を指先で突っつく。






そういえば、さっき慌ただしく流れで返事しちゃったけど。






私、後でミノに好きって言わなきゃいけないのか。







顔見て?


直接??








・・・無理じゃない??







無理無理無理!!







まともに言える気がしないから、教えてもらったばかりのカトクに『好き』とだけ入力して送った。






送ってから気付いたけど、初めて送るメッセージだね。






ミノのことを考えながら、練習が終わるのをカフェラテと一緒に待つ。










数十分後。








メッセージが既読になって。







返信を待っていたら、ミノから電話がかかってきて。

















「可愛いけど、だめ・・・直接聞くまで帰さないから。」

















少し苦しそうに、囁くようなその声で。












私の耳は、あの日触れられたみたいに溶けたんだ。

























おしまいです。




🐰がプロダンサーとしての道を選んでいたらのif




思い付きで続きを書いたけど楽しかったです。




みなさんも楽しんでくれたでしょうか・・・。




読んでくれてありがとうございました!

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