山田さんの口から直接、俺に向けて「すき」って言葉を一度も聞いたことがなかった。
や、まぁ…それが普通なんだろうけど、言っちゃえば俺ら付き合ってるんすよね?
あまりにも愛情表現とかがないもんだから、もうとっくのとうに自然消滅してるだとか、そもそも付き合ってなかったとか、考えちゃいますよ。
部室に1人、ソファに座りながらぼんやり脳内でお喋りをしていた。
ガララッ。
ドアが開く音がしたと思えば、その人は慌ただしいゲーム音を鳴らしながら足音を立てて入って来た。
「お、そーちゃんじゃん。珍しいね」
「あ、たくぱんさーん!どーもっす」
緑のマッシュに、右目だけ隠した細身の長身。
きゅーちゃんを恋愛対象として見てると言われているたくぱんさんだった。
「またなんかやらかしたの?」
「いや、そーなんすよ。あの担任くそだるいっす」
「ははは、また課題のことで言われたんだ」
「がちもうほんと、そういう細かいことでグチグチ言うなって感じ」
「イヤ、細かいことではないと思うんだけどな。」
「細かいことっすよ!俺がどれだけ我慢してきたか・・」
「とか言ってソレ嘘っしょ、どうせ遊びまくってるクセに」
「あーまあ、本気ではないっすよねー。」
「やっぱり?」
そんな事を話していれば、何やら廊下が騒がしかった。
ギャーギャーと人が騒ぐ声がした。
その中の一つに聞き慣れた声もあった。
「なんッだあいつマジで!!気分屋にも程があんだろーがタヒねッ!!!!」
「おいおいお前一旦落ち着けって。」
派手な2人がガラガラと音を立ててドアを開けて入ってきた。
赤いジャージを着たデカいアホ毛の生えたチビのはるてぃーさんと、青髪メガネのエロ小僧うたくんだ。
どうやら部室の外であったらしいが、面倒くさいので聞かないでおこう。
「はー、今日の撮影は山田抜きな」
はるてぃーさんの口から、そんな言葉が聞こえた。
え?なんで。今日の昼休みだって元気そうに校庭でサッカーしてたのに。なんか用事でもあったんすかね。
少しモヤモヤしつつも、撮影をして今日の部活も終わった。
放課後。少し心配になって、山田さんにラインしてみたけど返事はなし。いつも通りの未読スルーだ。
どれだけ経っても、今日のうちに山田さんからの返事が返ってくることはなかった。
次の日、また授業を終えて部室に向かった。
今日は部室に向かう前に軽く説教を食らったので、部活ギリギリだった。
ガラッ。
ドアを開けたそこには、山田さんの姿は見当たらなかった。
「・・・あれ?」
俺がそう言うと、ゆーまくんは言った。
「今日も休みだそうですよ、体調が悪いらしくて。」
「え、そうなんすか」
「信じられんよな、あの山田が体調崩すとか。」
ゲラゲラと、ダンベルを上げ下げしながら笑うこむさんがチョット怖かったってのは、ナイショにしててほしいな。
本当に、信じられなかった。
あの山田さんが?本当に?明日は休み時間に2年の教室に行こうと思った。
山田さんとのラインを見たら、既読は今日もついてなかった。
本当に体調悪いのかも。
心配なので、帰り際山田さんの家に寄ってみた。
ピンポーン。
インターホンを鳴らすが、誰も出てくる気配はなかった。
邪魔しちゃ悪いし、帰るかー。
そう思い、家に帰ることにした。
そしてまた次の日、今度は山田さんに会うぞ!と決心して2年の教室の方へ向かう。
すると、見慣れたオレンジ髪がちょうど廊下を歩いていた。
「山田さん!」
大声で名前を呼ぶ。
すると山田さんはぱっ、と振り向いたあと少し顔を顰めてどこかに行ってしまった。
おかしいな、いつもならこっちに来てくれるはずなのに。
モヤモヤしたまま、部活の時間になった。
今日もまた、山田さんは部室にいない。
それから、来る日も来る日も山田さんは部活に来ることはなかった。
「喧嘩でもしたの?」
落ち込む俺に、きゅーちゃんはそう言った。
でも、どれだけ思い出しても山田さんと喧嘩した覚えなんてなかった。
心当たりもない。
「もう、山田が部活来んなってから1週間経つで?」
こむくんにそう言われたって、心当たりがないんだからどうしようもない。
・・・まだ下校時間になってからさほど時間は経ってない。
まだ玄関に山田さんがいるかもしれない。
そう思った俺は、山田さんを引き止めるために廊下を走り出した。
居た。
靴を履き替えて、帰ろうとする山田さんが。
「山田さん!待って!」
「えっ」
慌てて山田さんの手首を掴む。
突然のことに、山田さんは驚いていた。
「手、離せや。もう俺に近づかんといて」
山田さんから発せられた言葉に、俺は頭が真っ白になった。
「な、なんで・・・?俺、山田さんになんかしちゃったんすか?謝るから、許してください・・」
「うるさい、もう知らん。離せっ、て。」
山田さんは腕を振りほどこうとしながら、地面に座り込んでしまった。
よく見ると顔が赤い。
しかも、息が荒い。
全体的にぐったりしている山田さんを見て、俺は慌てて抱き上げた。
意識が朦朧としていて、話せそうになかった。
俺は急いで自分の家に山田さんを運んだ。
「・・・っ、ぁ?」
しばらくして山田さんが目を覚ます。
「あぁ、良かった。山田さん、風邪ひいてるなら無理しないでください」
「・・・はよ帰れ」
「心配してくれてるんすか?俺は大丈夫っすよ」
「ちゃう。もう、オマエにとって俺は要らんのやろ?」
「・・・え?」
驚いた。どうしてそうなったんだ?
いつ、どこで俺が山田さんのことを要らないなんて言ったんだ?
どれだけ思い出そうとしても、心当たりがない。
「前、俺の事は遊びやとか細かいことグチグチ言ってくるの嫌がってたやん」
「・・・???それはその、たくぱんさんと話してた、時の?」
「そう。本気じゃないって言ったやん、そーちゃん。」
真剣な表情で俺を見る山田さんに、笑いがこみ上げてきた。
「っふ、あはははっ」
「なにわろとん!こっちは真剣なんやぞ」
「いやあだって、」
笑いすぎて出てきた涙を拭いながら
「それ、担任がウザいって話っすよ?」
「・・・は?」
山田さんは目をぱちくり開いたまま、固まった。
ボンッ、と顔を赤くし、布団に潜る。
「もしかして、山田さん自分のことと勘違いしてたんすか?」
「ウルサイ、しらん」
「あははっ、可愛いっすね山田さん♪」
「黙れ」
「俺が山田さんと遊びで付き合ってるわけないじゃないすか、本気で山田さんのこと愛してますよ俺」
「・・・俺も、そーちゃんのこと愛してる」
「っはーーーー・・可愛い。ねえ山田さん、キスしていいっすか?」
「は?いや、風邪うつるで・・・」
「大丈夫っすよ、俺強いんで」
「・・・」
「ほら、仲直りのキス」
ぐっ、と布団を退けては優しく唇を重ねて。
──後日、そーザウルスは無事風邪が移りましたとさ。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!