第8話

頼ってほしい
1,148
2023/05/02 11:23


岸家を我が家に招き入れて数日。

妹さんと弟くんはすっかり馴染んでくれて、毎日楽しく過ごしてくれる。

秘書さんとも仲良くなって、まるで家族のようでとても微笑ましい。

そんな反面、兄弟たちよりも警戒心が強くて、なかなか馴染んでくれないのが、まさかの岸くんだった。

なにをするにも1人だし、こちらが手伝おうとすると「大丈夫です!自分でやります!」と言って、断られてしまう。

岸くんは俺より年下だし、リードしてあげたいって思う。

でも、岸くんがそれを望んでいないのであればこちらも手が出せない。

それを秘書さんに相談すると、「岸さんにもなにか事情があるかもしれません。もう少し待ってみてはどうでしょう?」と言われてしまえば、大人しく待つしかない。

そして待つこと1ヶ月。

岸くんがストレス性の風邪をひいてしまった。



平野紫耀
平野紫耀
岸くん、大丈夫?
岸優太
岸優太
ゴホッゴホッ·····!
はい·····、だいじょうぶ、です。


全然大丈夫そうじゃない。

心配をかけないようにしているのか、まったく説得力がない。

顔は赤いし、普段よりも目が潤んでいる。

こんな姿を見たことがないから、とても心配だ。

岸優太
岸優太
いもうと····、おとうと·····、は?
平野紫耀
平野紫耀
2人は秘書さんが見てくれてるよ。
風邪がうつらないように、別邸の方に移っているけどね。
岸優太
岸優太
そうですか·····。
べっ、てい??


岸くんは「別邸」という言葉に反応したけど、考えるのをやめたのか、すぐに寝息をたてはじめた。

岸くんが寝入ったのを見て、部屋を出る。

岸くんが寝ている間に出来ることを済まそう。

平野紫耀
平野紫耀
まずは、お粥·····、その後に冷えピタを変える·····。岸くんが起きたら体を拭いてあげて、着替えを済ます·····。


スマホでお粥の作り方を見て、1人で黙々と作る。

火加減に注意をしながら、味付けをしてなんとか完成させる。

初めて作ったけどなかなか良い感じにできたと思う。

見た目も美味しそうだし、味付けもいい感じだ。

お粥を持って岸くんが眠る部屋に入る。

岸くんはまだ寝ていて、ぐっすりだ。

冷えピタを替えてやると、冷たさにピクっと反応したけど、またすぐに寝息をたてる。

それにほっとして、キッチンの片付けをしようと部屋を出た。

平野紫耀
平野紫耀
よく寝るな·····。
また隈ができていたからあまり寝ていないのかな·····。ここに住み始めてから岸くんが家にいるところをあまり見ないし·····。前もこんな生活だったのかな·····。


そういえば、岸くんは親がいなくて兄弟たちは自分が世話をしているって言ってたな。

頼れる人がいなくてずっと1人でやってたって。

もしかしたら、その癖が残っているのかもしれない。

平野紫耀
平野紫耀
どうしたら頼ってくれるの?岸くん。




チーン·····と鳴る音が聞こえる。

周りの大人たちは涙を流していた。

空気は重く、とても暗い。

まるで·····お通夜のようだ·····。

「可哀想に·····まだ若いのに。」

「まだ下に2人いるらしいぞ。」

「まだ赤ちゃんでしょ?」

「親がいないのにどうするのかしらねぇ·····。」



色んな方向から聞こえる心配する声。

まるで他人事のようだ。

大人は卑怯だ。

言うだけ言って、なにも助けてくれない。

手を差し伸べて欲しい時に無視して、いらない時に手を出してくる。

キモチワルイ。

本当に大人は·····、

キモチワルイ。

岸優太
岸優太
んッ·····。


ここは·····。

そうだ。

紫耀さんの家に引っ越したんだった。

岸優太
岸優太
懐かしい·····。
まさかあれが夢に出てくるなんて·····。


コンコン。

平野紫耀
平野紫耀
岸くん?具合はどう?


紫耀さん·····。

岸優太
岸優太
大丈夫です。
朝よりはマシです。
平野紫耀
平野紫耀
そっか!よかった!


ニコニコした笑顔。

風邪をひいているからか、いつもは気にしないのに今はその笑顔が嫌で仕方ない。

俺はいつも苦労してるのに·····。

岸優太
岸優太
·····出て行ってください。
平野紫耀
平野紫耀
え?
岸優太
岸優太
今は紫耀さんの顔、見たくないです。
平野紫耀
平野紫耀
な、なんで?
どうしたの?


あぁ·····、紫耀さん困ってる。

迷惑かけちゃダメなのに·····。

思っていることと、言っていることが逆になる。

岸優太
岸優太
放っておいてください。
あなたには関係ないです。
大人は·····、みんなそうだ。味方なんてしてくれない。手を差し伸べてくれない。どうせ、あなただって·····。優しくするのは今だけでしょ?飽きたら捨てるくせに·····。俺に構わないでください。


嘘だ。

紫耀さんはいつだって優しい。

見知らぬ俺を助けてくれた。

1人だった俺に手を差し伸べてくれた。

抱きしめてくれた。

なのに、俺は·····。

岸優太
岸優太
放っておいてください·····。
おとなに、なんか·····おれのきもち、わからないです·····。
平野紫耀
平野紫耀
岸くん·····泣かないで。


いつの間にか流れていた涙を優しく拭ってくれる。

こんなにも優しいのに俺は·····。

紫耀さんから離れようとしてる。

縋っちゃダメなのに。

迷惑かけちゃダメなのに。

岸優太
岸優太
ごめんなさい·····。ごめんなさい·····。
平野紫耀
平野紫耀
岸くん·····。
岸優太
岸優太
迷惑かけて·····、ごめんなさい。


ごめんなさい·····。

平野紫耀
平野紫耀
聞いて、岸くん。
岸優太
岸優太
·····はぃ。
平野紫耀
平野紫耀
俺は岸くんのこと、迷惑だって思ったことないよ。岸くんたちが来てくれてから毎日楽しいよ。家に帰ったらみんながいて、笑顔でおかえりって言ってくれて·····。本当に幸せだよ。
迷惑なんて思わない。俺は岸くんに頼って欲しいって思ってる。1人で抱え込まなくていいんだよ。
岸優太
岸優太
紫耀さん·····。
平野紫耀
平野紫耀
大丈夫。
俺は岸くんから離れない。
信じれないなら、信じてくれるまでずっと傍にいるよ。


俺はなんでこの人を疑ったんだろ。

こんなにも優しくて温かい人を、どうして裏切ろうとしたんだろ。

岸優太
岸優太
紫耀さん·····。
平野紫耀
平野紫耀
さっ!熱が上がっちゃうからもう寝な。
隣にいるから大丈夫だよ。1人じゃないからね。
岸優太
岸優太
·····はい。


暖かい。

紫耀さんは太陽みたいな人だ。

俺もずっと隣にいたい。

この人の傍にいたい。

好きだよ·····紫耀さん。



プリ小説オーディオドラマ