今日もいつもの様にお見合い相手の写真を見ずに断りを入れる。そんな俺のことを分かっている秘書さんはなにも言わず、すぐに退室していく。
秘書さんには申し訳ない気持ちはあるけれどこちらにも譲れないものはある。
母が「もうあなたも結婚できる歳でしょ?そろそろお見合いでもしてみたらどう?」と、言ったのが始まりだ。
それからは毎日のように知らない女性の写真を見せられている。ほぼ日常化したそれに嫌気がさしてくる。なにがよくて知らない女性の写真を見ないといけないのか。
秘書さんに呼ばれて仕事場に向かう。
今日はある企業との打ち合わせ。
そこまで大事な話でもないから行きたくないのだけれど、俺がいかないと向こうの社長の機嫌を損ねてしまう。母に迷惑をかけるわけにもいかないため、仕方なしに打ち合わせに向かう。
秘書さんは唯一俺の味方をしてくれる人。
いつも俺の体を気にかけてくれて色々話をしてくれる。小さい頃からお世話になっているから俺も接しやすい。
お見合いの件も俺が自分で相手を決めたいと知っているため、変に口出しをせずに見守っていてくれる。
本当にこの人が秘書さんでよかったなと思う。
企業さんたちとの打ち合わせを終えて、今日の仕事は終わった。ほぼ雑談のようなものだったから居眠りをしそうになったのはここだけの話。
秘書さんを帰して、俺は適当に歩き回る。
少々小腹が空いたから適当に食べようと思い、ふと目に入った雰囲気のいいカフェに入る。
カランカラン
俺を接客してくれたのは1人の男。
その人を見た瞬間、ドクンと心臓が鳴った。
案内された席に座る。
ニコッと笑って彼は接客に戻っていった。
まだ心臓がドキドキしている。こんな感覚を味わったのは初めてだ。
俺はこのドキドキに気づかないようにメニュー表を開いた。写真付きでオシャレなスイーツやご飯が載っていてどれも美味しそうだ。
そこでふと目に入った旬のフルーツがのったパンケーキというものに視線がいく。このお店のNo.1メニューらしく、お客さんだけでなく店員さんからも人気なようだ。
ピンポーン
パンケーキが来るのを待っている間に、接客をしているお兄さんを観察する。
お客さんに対してニコニコとした笑顔を向け、丁寧に接客している。時にコップに水を注ぎにいったりと休憩をする暇もなく動き回っている。
そんな姿がまるでハムスターのように見えてくる。
無意識に思ったことを口にする。
今までこんなことなかったのに、しかも男が男に対して可愛いと思うなんて思ってもいなかった。
でも、自覚すれば早かった。
彼が欲しくてたまらない。
自分のものにしたい。
俺を見てほしい。
そんな欲求が次から次へと溢れてくる。
自分の欲求が爆発しそうになったところで注文していたパンケーキがきた。
自覚をしてしまえばもう止まることはできない。
彼は俺が言っている意味がわかっていないのだろうか?ていうか、普通に名前教えちゃっているけど。危機感ないのかな·····なんて思ってしまう。
彼がいなくなって、俺はパンケーキを口にした。
美味しいパンケーキと運命の彼との奇跡の出会いをした。
秘書さん、俺見つけたよ。
結婚したい相手。
難しいと思うけど、絶対俺のものにするから。
だって、
彼がいいから。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。