朝のスタジオは、いつもより静かだった。
スタッフの声も、足音も、どこか遠い。
台本を抱えたまま、あなたの下の名前は控室の鏡を見つめる。
そこに映る自分は、いつもと何も変わらないのに、
中身だけが違っていた
今日は、伝える日だ。
廊下ですれ違う声に、自然に返事をする。
誰も、何も言わない。
でも、目が合う一瞬で分かる。
みんな、分かっている。
楽屋に入ると、スマホが震えた。
メッセージは来ていない
それでも通知画面を何度も確認してしまう自分に、苦笑する。
誰かに呼ばれるのを待っているわけじゃない。
でも、呼ばれたら
きっと、揺らぐ。
小さく呟いて、深呼吸する。
個別に話すつもりはなかった。
一人ひとりの目を見たら、
きっと私は、言葉を変えてしまう。
優しさも、迷いも、全部混ざって、
一番大事な答えが、ぼやける。
だから、同じ言葉を、同じ温度で。
逃げずに、誤魔化さずに。
撮影の合間、
全員が揃うタイミングを思い浮かべる。
胸がきゅっと縮む。
それでも、歩かなきゃいけない。
「選ばない」って決めた以上、
中途半端にはできない。
鏡の中の自分に、そっと言い聞かせる。
控室のドアを開けると、
遠くで笑い声がした。
その声が、
今日で少し変わってしまうかもしれないことを思って、
あなたの下の名前は一瞬だけ目を閉じる。
それから、前を向いた。
これは、終わらせるためじゃない。
それぞれが前に進むための言葉を、選ぶ日だ。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。