第6話

どうかいい夢を君に
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2023/05/17 12:57
『修治。どうしてお前は兄様と同じように出来ないの?』
『お前みたいな出来損ないなんて弟なんかでは無い』
『出ていけ!この恥さらし!』



「ハァハァハァ……」


乱れだ呼吸を整えながら何も考えないようにする
これは夢であり現実だ
私が”太宰治”になる前の話
決して消えない無くしてしまいたい過去

気づけば私はまた眠りに落ちていた







僕の家はこそこそ裕福だった
周りに妬まれる程
出来のいい兄と出来損ないの弟
「手のかかる子ほど可愛い」なんて言葉はあるがうちにはそんな言葉存在しなかった
兄が優秀な成績を残せば残すほど
『兄様は優秀なのにどうして弟は……』
なんて言葉を囁かれた
発した側は聞こえてないとでも思っているのだろうか
もちろんそれは全て耳に届いた
”苦しい”、”死にたい”なんて何度思ったか
しかしそれを言葉にすることは許されなかった
幼い僕には”耐える”というものしか与えられなかった


そんな中私の家はあるに大火事に見舞われた
遠く聞こえるのは誰かの叫び声
僕に数え切れないほどの罵声を浴びせた声
僕は運悪く生き残ってしまった
燃えたのは土の上のもの
僕がいたのは、いや、閉じ込められていたのはとてもとても暗い地下室
その頃には何も感じなくなっていた
このまま自分も死んでいまえたら、と思い願いを込めて目を閉じた


「おや、こんな事のに子供が……」


僕が目を覚ました時初めに聞いた声
僕が死ねなかったと、生きてしまったと自覚した声


「君名前は?」

「……」


短い髪を後ろでひとつに結んだ男の人がそう問いかける


「リンタロウこの子怪我してる」


どこから現れたのか
金髪の少女がそう男に伝えると


「ほんとかい、エリスちゃん」

「ほら、ここ」

僕の傷を指さしながら男に手招きをする
どれどれ、と唱えながら僕に近づき傷を診る
死にたい自分を診察するなんて変な男だ
仮に”津島家の子供”だとしてももう津島家は終わりだろう
家族は焼け死に、自分は子孫など残す気なんてさらさらない


「いい」

「え、?」

「ほっといていいよ」
「どうせすぐ死ぬんだ」
「治すだけ無駄だよ」

「…フフッ」
「君は面白い子だ」

「何が」

「いや、なんでもないよ」


なんでもないと言いながら笑いを堪えきれないかと言うように男は笑う


「エリスちゃん、とりあえず包帯をくれるかい?」

「いいわよ」
「少しの間じっとしててね」


そう金髪の少女が僕に触れた瞬間少女は消えた


「エリスちゃん?!」


もしかしてと思い尋ねる


「あの子おじさんの異能?」

「あ、嗚呼。そうだよ」
「それがどうかしたのかい?」

「僕の異能力のせいだよ」

「君の異能……?」


男は訳の分からないと言うように考え込む
そして
もしかして、いや…
などブツブツと何かを言いながら僕を瞳で捉える


「君の異能力は無効化と言ったものなのかい?」

「あたり」
「気味悪いでしょ?」
「大丈夫。慣れてるよ」

「気味悪い……?」
「まさか!!」
「欧米でも見かけない異能だ」
「とても珍しい、素晴らしい異能ではないか!!」


興奮したように男が喋り続ける
僕は変なものを見る目で男を見る
すると男から手を差し出された


「君さえ良けれな私と一緒にに来ないかい?」
「私は君を歓迎するよ」


僕が今までずっと欲しかった言葉を彼はくれた
僕の異能を、存在を否定せず受け入れる言葉
産んでくれた親さえくれなかった言葉を彼は初対面の僕にくれた
彼への返事に迷うことなどなかった




___さん

誰かに呼ばれたような気がする
突然目に入る光に眩しさを覚えながら目を開けると真っ白な髪の虎子の子


「あつし、くん」

「はい」
「太宰さん、おはようございます」

「おは、よう…?」

「あれ、覚えてないですか?」
「太宰さん熱出して自室で倒れてたんですよ」

「私がかい…?」

「はい。」
「いつものように探しに行こうとしたら乱歩さんに太宰さんの部屋に行けって言われて」
「行ってみると太宰さんが倒れてたんです」

「そう…」
「迷惑をかけたね、」
「ごめん」


そう言えば虎の子は目をパチクリさせてココアのように暖かく優しい顔をして


「太宰さんは大切な人です」
「見捨てたりなんて誰もしません」


と言ってくれた
ただその言葉が嬉しくて嬉しくて
自分が少し羨ましくなった


「もしかして私寝ている間、何か言ってた…?」

「どうでしょうか?」
「秘密です」


イタズラが成功した子供のような笑みを浮かべて人差し指を口元に運ぶ
まぁいいだろう
幸い内容を聞かれても大して問題は無い内容だった気がする


「まだボーッとしますか?」
「頭痛とかダルさとか」

「うーん…少し、だけ」

「分かりました」
「与謝野さんには僕から伝えとくので太宰さんはゆっくり休んでください」
「どうかいい夢を」

そう言い彼はベットの周りのカーテンを閉じ部屋を出ていった


「いい夢、ね」
「……もう一眠りするとしようではないか」



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作者
いかがでしたか?
作者
今回はめちゃくちゃ長くなりました…
作者
最後まで読んでくださると嬉しいです🥲‎
作者
では、また.ᐟ‪.ᐟ‪




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