締め切られた楽屋から漏れ出てくるジェシーの歓喜の声。撮影が一段落して一緒に戻る途中だった樹、トイレから帰ってくる道だった髙地と目を見合せた。
高地が何か言うのが聞こえた。けどそんなの答える余裕は持ち合わせてなくて、駆け出した勢いのまま楽屋の扉に飛びついた。
桜井さんとはあれ以来会うことも、連絡をすることもしなかった。彼女に対してアクションを起こそうとする度「彼」の顔がチラついてしまったから。
でもそんなモヤモヤも今日で終わりだ
心臓が高鳴るまま扉を引くと、嬉しそうなジェシーと京本に囲まれて笑う桜井さんがいた。
パッと華やいだ笑顔に思わず頬が緩むのが分かる。数週間前じゃ笑い合うどころか目を合わすことさえ出来なかったのに、もう彼女と目を合わせられるのを待ち遠しにしていたんだ。
色々言いたいことはあった。でも今いちばん伝えたい事はこれだ。今までを取り戻したい、やり直したい。
はにかむ彼女の後ろで京本とジェシーが顔を見合わせたのが見えた。お見舞いに行っていたことを知らない2人からしてみれば俺たちの間の空気感が変わったこ
さっと血の気が引くのが分かった。今一番来てほしくなかった人、彼女の好きな人。
慎太郎は振り返った俺に一目もくれずまっすぐと桜井さんへ向かっていった。桜井さんも、見たことがないはにかむような笑みで彼を見上げている。
自然なしぐさで彼女の髪に触れる慎太郎も、頬を赤らめながらもされるがままの桜井さんも恋人同士のようで。
いつの間にかこちらに来ていたジェシーと京本は、冷やかしを混ぜた、ほほえましいものを見る目でお互いくすくすと笑ってる。
ここに俺の居場所はない。誰の目から見ても二人は想いあっていてつけ入るすきもない。彼女の眼には慎太郎が写っている。
腹が立つ
二人を応援する京本たちも、見せつけるような慎太郎のしぐさも
全身の血液が沸き立つような感覚が気取られないよう、そっと来た道を帰った。途中で樹たちとすれ違ったけれど無視をした。
だって今の俺は、ひどく負け犬だから












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。