第80話

- 声をなくした歌姫 4 -
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2025/10/22 09:00 更新
🐬side


手術当日の朝。


まだ外は薄暗く、静かな宿舎にコーヒーの香りだけが漂っていた。
私はその香りを頼りにリビングへ向かうと、ひーくんがマグカップを手に立っていた。

 𝘢𝘴
𝘢𝘴
眠れへんかった?
 𝘶
𝘶
📝あんまり寝る気になれなかった。


ひーくんは何も言わず、そっともう一つのカップを差し出した。温かさが手のひらに広がるのに、胸の奥は冷たいままだった。




玄関の前で、3人が並んで立っていた。

 𝘶
𝘶
📝行ってきます。
 𝘫𝘸
𝘫𝘸
無理しないで。ゆっくりでいいから。
 𝘢𝘴
𝘢𝘴
頑張れ。


ジョンファンは目に涙を浮かべながら何も言わずに手を振った。

 𝘩𝘳
𝘩𝘳
行くで。


ハルトは私の荷物を持ち、先に歩き出す。

 𝘶
𝘶
待って。



ギュッ


 𝘫𝘩
𝘫𝘩
あなた、、、グスッ
 𝘶
𝘶
何泣いてるのㅎ
 𝘫𝘩
𝘫𝘩
すぐ戻ってくるよね、?
 𝘶
𝘶
うん。
 𝘩𝘳
𝘩𝘳
あなた。
 𝘶
𝘶
、、行ってきます。





病院へ向かう車の中。

マネージャーもハルトも、ほとんど言葉を発さなかった。


私は膝の上にノートを開き、震える手でペンを走らせた。



X月X日

手術の日。本当は怖くてたまらない。
もし声が戻らなかったらって、考えるだけで息が詰まる。
でも、それでも前に進まなきゃ。
だって、ステージにもう一度立ちたいから。
みんなが「待ってる」って言ってくれた。
その言葉を信じたい。

また歌えますように。



書き終えた瞬間、胸の奥が少しだけ軽くなった気がした。


ノートを閉じると、ハルトがちらりと私を見て、何も言わずに前を向いた。
それだけで、少しだけ勇気が湧いた。





病院に着いた。


入院着に着替え、手術室の前に立つ。
扉の向こうに、自分の未来がある。

けれど、今はその一歩がやけに重たく感じた。


マネージャーが何かを医師と話している間、私は少しだけ立ち止まり、振り返る。
ハルトが、静かに手を差し出していた。

その瞬間、胸の奥がぎゅっと熱くなる。


一歩、二歩。


気づけば、私はハルトの胸に顔を埋めていた。
ハルトの手が、そっと私の背中を包み込む。

言葉なんていらなかった。
鼓動が伝わるだけで、少しだけ怖さが薄れていく気がした。

 𝘶
𝘶
、、行ってくるね。
 𝘩𝘳
𝘩𝘳
うん。待ってる。


抱きしめた腕に力を込めて、ゆっくりと言った。

ほんの数秒の抱擁。


でも、その温もりが、冷たい空気の中で最後の支えになった。


扉の向こうへ歩き出すとき、もう涙は止められなかった。
それでも、背中に残る温かさが「大丈夫」と小さく囁いた気がした。





手術室に足を踏み入れると、独特の消毒液の匂いが鼻を突いた。天井は眩しいほど明るいのに、なぜか世界が遠く霞んで見えた。



医者「深呼吸してね。ゆっくりで大丈夫だから。」



マスクを当てられ、一度だけ大きく息を吸った。



ハルトの「待ってる」が、まだ耳の奥に残っている。


その声を反芻するように、ゆっくりと瞼を閉じた。

























「、、、あなたさん、聞こえますか?」



遠くから声がした。
重たい瞼をゆっくり持ち上げると、白い天井と、マスク越しに微笑む看護師が見えた。

喉に鈍い痛み。

でも、それが終わっただという証拠でもあった。


意識が少し戻ると、カーテンの向こうから足音がした。
そっとカーテンが開き、ハルトが顔を覗かせた。

目が合った瞬間、彼の表情が崩れた。安堵と涙が混ざったような顔で、ベッドの傍に駆け寄る。

 𝘩𝘳
𝘩𝘳
あなた、、よかった、、。


その声は震えていた。

返事をしたくても、声が出ない。代わりに、私は小さく頷いた。


ハルトはその手をそっと握り、何も言わずに微笑んだ。
その温もりだけで、ああ、生きて戻ってこれたんだ。と実感する。










手術から、数週間が経った。



喉の痛みは少しずつ和らいできたけれど、まだ声は、前のようには出なかった。
医師の許可をもらって、少しずつ発声練習を始めている。
練習室の片隅、ジョンウオッパがピアノの前に座り、私がその横に立つ。

 𝘫𝘸
𝘫𝘸
本当に、無理だけはしないで。


優しい声が響くたび、胸の奥がきゅっと痛んだ。


唇を開き、そっと息を吐く。出たのは、かすれた声。
高音に届く前に、喉が震えて止まった。

何度も挑戦しても、音は掠れて消える。

 𝘫𝘸
𝘫𝘸
すごいじゃん!さっきより出てる!


オッパは笑ってそう言う。

けれど、その笑顔を見れば見るほど、心のどこかで声がする。



こんなの、もう歌じゃない。





ピアノの音が止む。

オッパが私の好きなココアを渡してくれる。

 𝘫𝘸
𝘫𝘸
今日はここまでにしよっか。


私は小さく頷く。


けれど、喉の奥が熱くて、飲み込むココアの味もわからなかった。


部屋の隅にいたハルトが、静かに立ち上がって寄ってくる。

 𝘩𝘳
𝘩𝘳
お疲れ。よぉ頑張ったやん。


そう言って、頭を軽く撫でた。

笑わなきゃと思って、私はかろうじて笑顔を作った。


でも、胸の奥は空っぽだった。頑張ってるのに、どこにも届かない。


自分だけ、取り残されていく気がした。





夜。


宿舎に戻って、ノートを開く。
手が震えて、文字がうまく書けない。



X月X日

練習した。少しだけ声が出た。
でも、全然足りない。
前みたいに歌えない。前みたいに笑えない。
みんなは優しいのに、その優しさが、怖い。

また、歌えるようになるのかな。





.....続く




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