第5話

4話
140
2026/02/23 10:14 更新
出会って一ヶ月。

瀬戸山くんは、私の飲んでいたいちごオレを
勝手に奪って一口飲むと、眉間にシワを寄せた。
瀬戸山 陽向
瀬戸山 陽向
……甘。よくこんなの飲めるな。
お前、やっぱり味覚死んでんじゃねぇの?
橘 美月
橘 美月
は?文句言うなら返して!!
瀬戸山 陽向
瀬戸山 陽向
お前がちんたら飲んでるのが
悪いんだろ。ほら、取ってみろよ。
彼はわざと意地悪く、
いちごオレを持った腕を上げる。

私が必死に手を伸ばしても、それには全然届かない。

橘 美月
橘 美月
チビじゃないもん!!160cmはあるし!!
瀬戸山 陽向
瀬戸山 陽向
へぇー、意外とあるんだな。
……横幅が。(笑)
橘 美月
橘 美月
殺すよ?
私が真顔で返すと、瀬戸山くんは
今日一番の楽しそうな声で笑った。
瀬戸山 陽向
瀬戸山 陽向
あー、怖い怖い。口の悪さだけは2m級だな。
橘 美月
橘 美月
瀬戸山くんが言わせてるんでしょ!!
もう、本当に勝手だな……。
私はぷいっと横を向いたけど、
奪われたイチゴオレを「間接キスじゃん」
なんて指摘する余裕すらない。

一ヶ月前はあんなにも彼の事が気に食わなかったのに
今はこうして、世界で一番大嫌いな彼と笑い合っている。
瀬戸山 陽向
瀬戸山 陽向
その恐ろしい殺気、どっから湧いてくんの?
玉子焼きの食い過ぎ?
橘 美月
橘 美月
瀬戸山くんが毎朝一つ残らず
私のお弁当から玉子焼きを
強奪していくせいでしょ!?
瀬戸山 陽向
瀬戸山 陽向
っはは、おかげで俺、最近調子いいわ。……ほら。
瀬戸山くんはそう言うと、
購買のメロンパンを私の膝の上にドサッと投げ置いた。
橘 美月
橘 美月
……なにこれ、賄賂?
瀬戸山 陽向
瀬戸山 陽向
イチゴオレの代わり。
お前、それ食って少しは縦に伸ばせよ。
今のままだと、お前小さすぎて俺の視界から消えるから。(笑)
橘 美月
橘 美月
失礼すぎる…まぁ貰っとくけどさ。
私は文句を言いながらも、
彼が勝手に買ってきたパンの袋を開ける。

一ヶ月前。最初は彼の目つきが怖くて、
言葉にトゲがあって、仲良くなれるなんて
一ミリも思ってなかった。

でも今はこうして呼吸を合わせるように
くだらない事を言い合って、
私の好きなパンを、彼が何も言わずに買ってくる。
橘 美月
橘 美月
ねぇ、明日、雨だって。
あんまりひどかったら、帰り道大変そうだよね。
瀬戸山 陽向
瀬戸山 陽向
……何お前、遠回しに俺の傘に入りたいって言いたいわけ?
橘 美月
橘 美月
自意識過剰過ぎる……
私はただ、雨だと靴とか鞄が汚れるのが
嫌だなって思ってただけだし。
瀬戸山 陽向
瀬戸山 陽向
はいはい、分かったから。
…じゃあ明日、放課後。俺の家来いよ。
橘 美月
橘 美月
え……なんで?
思わず聞き返した私に、
瀬戸山くんは「は?」と心底面倒くさそうな顔をした。
瀬戸山 陽向
瀬戸山 陽向
お前、定期テストまで
あと3週間切ってんの自覚ある?
数学の小テスト、赤点ギリギリだったんだろ。
このままだとお前確実に詰むぞ。
橘 美月
橘 美月
それはそうだけど…何で瀬戸山くんの家なの?
図書室とかでいいじゃん。
瀬戸山 陽向
瀬戸山 陽向
図書室は寝てる奴が視界にちらついてきて
集中できねぇんだよ。
それに、お前がバカすぎて絶叫しても、
俺の家なら誰にも迷惑かかんねぇし。(笑)
橘 美月
橘 美月
はッ…!?絶叫しないもん!!!!
瀬戸山 陽向
瀬戸山 陽向
とにかく、ホームルーム終わったら迎え行くから。
…教え方が下手だって文句言ったら、
その場で追い出すからな。
橘 美月
橘 美月
……言わないし。
ていうか瀬戸山くん、意外とマメだよね。
ちょっとだけ見直してあげてもいいかも。
瀬戸山 陽向
瀬戸山 陽向
うるせぇ、黙って食え。口動かすより手動かせよ。
1000日間のうち、これが30日目。

瀬戸山くんはそう吐き捨てて
自分の教室へ戻っていったけど、
去り際に耳が少しだけ赤くなっていたのを
私は見逃さなかった。

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