覗き込まれた整った顔に、こくりと頷く
強く握られた両手に思わず苦笑を零す
日曜日、酒屋さんの前で僕はしゆちゃに引き止められていた。
生暖かい風が横髪を揺らす。
もう3月。もうすぐ、春だ。
結局お姉ちゃんには言えなかった。
手紙も机の引き出しにしまってある
さっきからずっとこんな調子だ。
もう今年から受験生なんだよ?
聞きなれた声に後ろを振り向くと
安心する灰色が何かを抱えてやってきた
花屋さんが差し出した小さなブーケを見つめる
薔薇が5本…と…ハーデンべルギア……
僕が鞄を漁ろうとすると手で静止させられる
それがお代ってことで、と花屋さんは笑う。
暖かい手からミニブーケを受け取った
行ってらっしゃい、と、何重にも重なって聞こえた気がした
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がた、がた、と揺れるバスの中
震える手を隠すようにブーケを両手で握る
期待と不安と緊張が体を巡って
何も考えず
窓越しに灰色を眺めた
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息を呑む。自分が思うよりも、大きく手が震えた
もう一度、名前を確認して、戸に手をかける
震える手を誤魔化すように、勢いよく戸を開けた
がらがら、と音を立て、前を見ずに中へ入る
弾かれたように顔をあげる
角のない無機質な部屋。閉められた窓からは大きな木が見える
真っ白に乗った、ひとつの灰色。
記憶の中と変わらない、顔、声。
ぶわ、と何かが湧き上がるような変な感情に襲われた
思わずしゃくり上げる
止む気配のない雨は僕の輪郭を沿って床へと落ちる
ベッド横の引かれたパイプ椅子にたどたどしく向かい、大人しく座る
涙で滲んだ灰色が、優しく微笑んだ
親指で落ちる雫を拭う
昔と変わらない若々しい顔がくしゃ、と歪む
こぼれ落ちる透明に、唖然とお母さんを見つめた
布団がぎゅ、と握られる
下げられた頭に、何も言えなくて。
違う、とも、言えなくて
『あなたの為を思って言ってるの!』
身を乗り出す。
涙が布団にほとほとと落ちる
顔を上げる
昔から大好きだった顔が、僕を驚いた表情で見つめた
普通じゃなくてごめんなさい。
言う通りにできなくてごめんなさい。
上手く描けなくてごめんなさい。
見えなくて、ごめんなさい。
募りに募った言おうと思ってた謝罪の言葉は、目の前で消えていった
持っていたブーケを、片手で差し出す
受け取られたブーケは、横の机に置かれた
愛おしげに花を見つめるお母さん
ふと、お母さんは窓を見る。
つられて視線をやると
光に照らされた若葉が
舞っていた
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優しさとは、弱さであり
弱さとは、強さである
弱さを分かっていれば、どこまでも強くなれる












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。