『 愛する貴方へ。この手紙を読めているということは、貴方は無事に国境を越えたのでしょう 』
『 あの紅茶に混ぜたのは、眠り薬だけではありません 』
『 貴方の喉を焼くほどの甘さは、猛毒の味を消すためのものでした 』
『 貴方にではなく、私自身の。 』
『 貴方を逃がした罪は、誰かが背負わねばなりません 』
『 執行人が囚人を逃したとなれば、朱桜家は取り潰される 』
『 ですから、私は「貴方を処刑し、その直後に自ら毒を仰いだ」という筋書きを書きました 』
『 貴方を追い詰めたこの腐敗した家門を、私の死を似て終わらせます 』
『 貴方に私印章は、私の心臓そのもの 』
『 それを使って、どうか新しい名前で、自由に生きてください 』
手紙の最後には、にじんだ文字でこう書き加えられていた
『 未代まで貴方を恨むと言ったのは、嘘です 』
『 貴方を恨むことでしか、私は正気を保てなかった 』
『 ――さようなら、私の、たった一人の騎士様 』
馬車の窓から振り返ると、遠くの王都の空が赤く染まっていた
それは夜明けではなく、朱桜の本邸が燃え上がる、紅蓮の炎の色だた












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!