体育の授業、男子の種目はバスケットボールだった。
コートの中を縦横無尽に駆け回る小川は、小柄な身体からは想像もつかないほど運動神経が抜群だった。
軽やかなフットワークで相手を抜き去り、麗なフォームでシュートを決めていく。
ハイタッチを求めて手を差し出してくる小川。
パンと手を打ち合わせると、汗ばんだ小川の手はやっぱり驚くほど小さくて華奢だった。
周りの男子からも歓声が上がる。
コートで弾けるような笑顔を見せる小川は、どこからどう見てもクラスの頼もしい人気者だ。
やがて授業終了のチャイムが鳴り、みんな一斉に男子更衣室へ向かう。
汗をかいたTシャツを脱ぎ始める男子生徒たちの中で、小川だけがその場に立ち尽くしていた。
男子生徒の一人が小川の肩を抱こうと手を伸ばした瞬間、小川はびくっと身体を強張らせて後退りした。
普段の余裕ある態度とは違う、あからさまな動揺。
その場が一瞬気まずい空気に包まれそうになり、俺は咄嗟に割り込んだ。
男子たちが去り、体育館の脇の更衣室前に小川と俺の二人だけが残された。
ホッとしたように息を吐く小川の顔は、どこか青ざめているように見えた。
なぜそこまで一緒に着替えるのを拒むのか。
男同士なら汗を流して着替えるくらい、何の不思議もないはずなのに。
小川は慌てたように更衣室へ駆け込み、カチャリと内側から鍵をかけた。
取り残された俺は、ベンチの横に置かれた小川の通学バッグに目をやった。
慌てて走っていったせいか、バッグのファスナーが半分開いている。
その隙間から、ちらりと中身が見えていた。
男子が持つような無骨なタオルやハンカチじゃない。
白地に淡いピンクの花柄が刺繍された、上品で可愛らしいレディースのハンカチ。
俺の胸の中で、疑惑が大きな確信へと変わり始めていた
鍵のかかった更衣室の扉を見つめながら、俺は強く握りしめた自分の手を見つめた。














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!