第2話

もふもふが必要なとき。
601
2022/10/14 08:57
その日は、久しぶりの非番だった。
だから、いつも厳しくしてしまうあの人に、精一杯おんがえししようと思ったのに。
でも、うまくいかんかった。
ぎゃくに、あの人を怒らせてもうた。
「ゾムー、いふりーと、借りてええ?」
「んー?ええけど...なんで?」
「いや、ちょっとな...」
...バレたくない。
いつもどうり、いつもどうり。
きっと、いつも道理に笑っているはず。
...笑えてたい。
「...いふー」
わぅんっ!
「トントンが疲れとるらしいけぇ、体貸してやり」
ぅわんっ!
「ありがとな」
「いや、ええで」
「んじゃ、いふ借りてくでー」
「おん、明日までには返してな」
「わかっとる」
...
......
.........
いつも自分たちが過ごしている幹部棟から少し離れた物置倉庫。
そこが、泣きたくなったときにいつも行くところだった。
いつもは一人だったけど、今日はいふりーとも連れて。
「すまんなぁ、いふ、ちょっと体借してな」
わんっ!
そう言うと、もふっ、と音を立てそうな勢いでいふの体に顔を埋める。
...さすがゾム。手入れの力の入れ方が違う。
めっちゃもふもふ。
思わずこのまま寝そう、に、なるくらい、に、は...


「お、やっと寝たかトントン」
ぐし、ぐし、と靴の音をさせてこちらへ歩いてきたのは、案の定ゾムだった。
...いままでは完全に気配や足音を消して歩いていたのに、いつの間にか基地内では鳴らすようになり、自分の存在を主張するようになった。
成長したんやなぁ。
「...グルッペンから通信きたときは何かと思ったわ」
...え。
ぐるさんが?
「嘘やないで」
!!
「なぁトントン、ホントは起きとるんやろ?」
「...」
「グルッペンがな、トン氏を寝かせてやってくれって」
しんぱい、してくれたのだろうか。
おれのこと、捨てないでいてくれるのだろうか。
...まだ、隣りにいていいのだろうか。
「おれじゃあ、こんなことを伝えるしかできんから」
「...」
「...ほら、あとは...」
「グルッペンに、聞いてき」
それを聞いた途端に、駆け出した。
ゾムも、いふりーとも、わかっとったように何も言わんでいてくれた。
そして...
「グルッペン...!」
ドアを開けて、中に入る。
いつも机に向かって前を向いている我らの総統は、今は、
「泣いとるん...?」
その晴天の瞳からぽろぽろと雨を振らせていた。
「...!とんし...」
「ぐるさん...」
「っ!みないで、見ないでくれ...!」
そういって、顔を腕で隠してしまう。
目が腫れてしまうのに、手でこすってなかったことにしようとしてしまう。
「ぐるさん」
「ごめ、すまんかった...!」
「ぐるさん、怒ってない、怒ってないで」
「ほんと、に?ほんとに、おこってない?許してくれる?」
「うん、ほんとや、ほんとやから、泣かんでや?」
そう伝えても、ぐるさんの目から涙はいっこうに消えてくれない。
「ほんとは、とんしに休んでほしくて、だから、休みの日あげてっ、」
「うんうん、そうやったんやなぁ、ありがとうな、ぐるさん」
「でも、休んでくれないっ、から、あんなこと、言っちゃって、」
「あぁ...それはすまんかった」
「あのな、俺が今日休もうとせんかったのは、」

「あんたが、喜ぶようなことを、したかったからや」
「なのに、あんたが休みくれた意味を履き違えて、あんたを泣かしてもうて...」
「こんなやつでも、まだ、右腕やって言ってくれる?」
たぶん、俺の声は少し震えていたと思う。
...でも、それでもこれを言わないと、この人はずっと泣いてしまう、ような気がした。
なぁ、笑ってぇや、ぐるさん。
「あたりまえだろう!」
「!!」
「とんしは、トントンは俺の右腕や!いまさら、やめるなんて言わせんからな!」
「...ほんま?」
「ああ!」
「...というか、そもそもやめる気なんてないんですけどね」
「...ほんとか?」
「ええ」
と言って、ふわり、と笑ってやると、ぐるさんも安心したようにやっと、笑ってくれた。




そのあと部屋に入ってきた鬱に二人共が泣き笑いしている様子を見られて
「ぐるちゃんととんちが寝てなさすぎておかしくなった!」
と叫ばれたので、二人仲良く医務室での休みをもらった。
うつ許さねぇ
         Byグルッペン

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