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第3話

誰かが心配だったとき。
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2023/10/07 00:04
主
おひさ
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特に、なんの変哲もない、いつもの任務のはずだった。
だから、いつものようにあのバカ先輩を送り出したのに。
...殺意はたくさんで。

...ただ、バカ先輩なら大丈夫だろうという、信頼と、ひとしずくの心配ものせて。


その任務は、もとから少し怪しかったらしい。
ただ、頭の湧いたバカどもをいつものように殺しに行くだけ。
でも、どうやら、そのバカどもはよりによって自分たちでも御しきれない化け物を、出してきたらしい。
そして、バカ先輩は、

「どうしたんやろな」

その任務から、帰ってこなかった。



「もう一週間か...」
「ああ、あの特攻隊長がいなくなって?」
「噂では、任務にかこつけて逃走したらしいぞ」
「あらそうなの?私が聞いた話では...」

ひそひそ、ひそひそ、ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ。
よく回る口である。
いっそ呆れ返るほどに。

「相変わらずあの時からつまらなそうな顔しとんのぉ」
「あ、だいせんせい...」
「シッマなら大丈夫やって、な?」
「でも、」
「たぶん、今までと一緒の迷子やって。帰ってくる、かえってくるから、な?きっと...」
「そんな保証、どこにもないじゃないですか」
「保証なんてなくったってええんや。大事なのは、今は、待つことやからな」
「そんなの、」
「でもなぁ、僕らはぐるちゃんの指示がないと動けんからねぇ」

そう。そうなのだ。
あの総統は未だに何もこちらに指示をしていない。
いまもあの、バカ先輩がどうにかなってしまっているかもしれないのに。
...いや、ただ俺以外のやつがバカ先輩を殺すのが耐えられないだけだが。
心配...なのかもしれないけど。

「大丈夫、大丈夫やって。あいつはそんな簡単に死ぬようなやつやないから。な、それはお前が一番わかっとるやろ?しょっぴくん」
「...はい」
「しょっぴくんの攻撃をあんなに受けても無傷で元気やったあいつがそんなかんたんにくたばるわけ無いやろ」
「...は、い」
「な、今はまっとこや、しょっぴくん」
「...」

そう言って、大先生はぐしゃり、と灰皿にタバコを乱暴に押し付けて去っていってしまった。
でも良かったのかもしれない。今は、一人でいたい気分だから。

「にゃぅ...」
「...ぅっく、ぁぅ、ぇっ」
「に〜ぅ...」

飼ってる猫が、まるで慰めるようにぺろぺろと頬を舐めてくる。
でも、涙はなかなか止まってくれなくて。
きっと今俺がほしいのは猫ではなく、むかつくが、とてもむかつくが、あの、先輩の撫でてくれる手だ。
いつも役に立てばわしゃわしゃと少し乱暴に、ぶっきらぼうに、あの太陽のような笑顔で撫でてくれた手だ。
でも、今はそれがなくて。
いくら泣いてもあの先輩が目の間に来て撫でてくれることはなくて。

やっと涙が収まってきた頃、耳元のインカムがザザッ...と音を立てた。
そして、我らが総統の声が、

「行くゾ、お前ら。アイツを取り戻しに」

と聞こえてきた。

その声が聞こえた瞬間、胸に何かがこみ上げた。
ああ、助けに行けるのだ、と、助けられるのだ、死んではいないのだ、と。
やっと、あの声が聞けるのだ、と。

そこからは早かった。
ぱぱっと行って、総統や書記長が調べていてくれた敵の弱点を突いて、それで終わり。
なんてことない、ただの作業だった。
幸いバカ先輩にはなんの傷もなくて、所詮この程度の敵だったのか、と鼻で笑えるほどだった。

そして、いつもの日常が始まった。

でも、いつもはうっとおしかった先輩の手が、なんだか暖かく感じた。

「...もう、いなくならんとってくださいね」

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主
遅くなってすまん!

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