夕暮れの涼しげなにおいと妙な身体の痛みを感じ、わたしは重いまぶたを開ける。
作業が終わり、安心したと同時にエネルギー切れしてしまったのだろう、気づけばわたしはデスクに資料を広げたまま眠りについていたらしい。
これはまずいと思い、がばっと身体を起こす。
ぱさり
静かに布の擦れる音がして、何かが床に落ちた。
記憶にないものがそこにあり、わたしは頭をひねらす。思い返してみるが、昨日(ほとんど今日)は作業が終わりそのまま眠ったので、こんなものを掛ける余裕もなかったはず。
そういえば昨日は忘れ物を取りにミランくんが来たはず。あ、鍵返してもらったっけ?
ふとデスクに視線を移すと、丁寧に感謝のメッセージが書かれたメモといっしょに鍵がおかれてあった。
そうつぶやいて、ふっと笑みをこぼす。
と、急に電話のベルがじりじりと小刻みに音を立てる。
くるくると数回指を回し、受話器に向ける。
ひゅうと受話器が自然に浮かび上がり、わたしの元へと進んでくる。
その声の主は、意外な者だった。
言動がまるでおじいちゃん。
かわいらしいヴァンパイアだな〜なんて思う。
うそ、うそだ、
だって、わたしたちは人間に何もしてないじゃない?
強いめまいがする。
なんで?なんで?
最善を尽くして頑張ってきたはず。
なのになんで、なんで?
わたしの思いは、祈りは、何も伝わらなかったの?
はぁはぁと荒く呼吸をしながら、わたしは早口で捲し立てる。
こんなことが、あっていいはずがない。
なぜそこまでして人間は、わたしたち魔女を煩わしく思う?
先ほどの条例やらなんやらの話は、心に深く残っていた傷跡を思い出させる。
その傷跡は、思いを全て他種族の指導者にぶちまけるほど心の臓に深く食い込み、えぐっていく。
自分の親と同じくらい尊敬していた、先輩の魔女。
かわいらしい見た目に反し、魔力は膨大、強さも半端じゃない。
魔女の中の魔女な彼女は、わたしの大きな憧れの存在であった。
記憶の中の彼女はいつもツインテールをしていて、リボンを巻き、ふわりとスカートをゆらす。
その仕草が、もどかしいほどにうつくしい。
言いかけた時、ふっと背後に気配を感じた。
いつのまにか、マオちゃんがいたらしい。
わたしから受話器をそっと取るとギルザレン様と何やらお話を始めた。
頭がぐわんとしてきて、周りの音が聞こえなくなる。
何を話してるのかもわからない。
目の前が……ぼやけてきて____……
いつのまにかわたしは、また眠ってしまったようだった。















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!