第5話

覚悟
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2024/02/03 09:35 更新
部屋には、沈黙が広がっていた。

此処は太宰の部屋で、此処にいるのは二人だけ。
何方どちらも、話す機会タイミングを伺っている。
中島敦
…………太宰さん
静かな空間に、敦の声が響いた。
太宰治
別れるつもりは、ないよ
「別れましょう」
そう云われるのは判っていたから、先に宣言しておいた。其れに……。

『別れましょう、太宰さん』

こんなこと、二度も云われたら、立ち直れる気がしない。
中島敦
何で……ですか……
太宰治
……え?
中島敦
何で……僕をこんなに。大切にして呉れるん、ですか……?
泣きそうな顔で、太宰を見上げる敦。
かわいい。……いや、そんなことを思っている場合ではなく。
太宰治
敦君のことが、好きだからさ
迚も簡単なことだ。
好きで、大切で、愛していて。敦君が居なければ、私は生きていくことすら難しい。其れくらい、敦君のことが好きなのだ。

人はこれを、依存という。
そうだ、依存だ。それの何が悪い。
だからこそ、私は一生、彼を離す気はない。
中島敦
うぅ………。あり、がとう……ございます…
敦の奇麗な目を見て、好きだからだと伝えた。すると恥ずかしいのか、ほんのりと顔を赤らめながら、小さな声でお礼を云う。
太宰治
かわいい……
中島敦
っ……!!
つい声を洩らしてしまった。
耳まで顔を真っ赤にして、目を泳がせている。
このまま、誤魔化されてくれないかなぁ。心の底から切望する。
中島敦
………すぅー……はぁー……
嗚呼、無理そうだ。
やっと目的を思い出して、深呼吸して落ち着こうとしてる。
中島敦
御免なさい。もう、別れたいです
一気に顔を上げ、覚悟が決まったみたいな声で、絶望に感じる言葉を発した。

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