LANside───。
朝。
ぼんやりと白い光が滲んでいる。
まるで、水の中から世界を見ているみたい。
ふと、柏木先生の話を思い出す。
胸がぎゅっと締め付けられた。
いるまは優しい。
だからきっと、自分のことを責めてしまう。
そんなの嫌だった。
……私のせいで、いるまが苦しむのは嫌だ。
だから、離れなきゃって思った。
私のことなんか忘れられるくらい、遠くに。
昨日決めたことを掠れた声で呟く。
最低だと思った。
いるまに嘘をつくなんて。
でも、これしか思いつかなかった。
涙が頬を伝う。
その時、病室の扉が開く音がした。
慌てて涙を拭った。
少し乱暴な足音をする。
聞き慣れた音だった。
──いるまだ。
いるまの震えた声がした。
その一言だけで、涙が溢れそうになる。
会いたかった。
思いっきり抱きつきたかった。
でも、そんなことしたら離れられなくなってしまう。
私はゆっくり顔を向ける。
ぼやけた光の中、
いるまの位置がわからない。
それでも、声の方向を探すように視線を動かした。
そして、映画で見た事のあるお決まりのセリフを言う。
その瞬間、空気が止まった気がした。
息を呑む音が聞こえる。
胸が痛い。
いるま、ごめんね。
言葉を吐くたび、自分の心が削れていく。
いるまが近付いてくる気配がした。
あるよ。全部覚えてる。
いるまの整った顔も、笑った顔も、怒った顔も。
全部大好きだよ。
だからこそ、私はいるまの隣にはいられない。
名前を強く呼ばれると同時にそっと手に触れられた。
その手が凄く優しくて、涙が出そうになる。
いるまの手を握り返したい。
だけど、次の瞬間 違う考えが頭に浮かぶ。
──離れなきゃ。
反射的にいるまの手を強く振り払ってしまった。
直後、いるまが息を呑む音がした。
いるまはしばらく何も言わなかった。
やがて、無理に優しくした声が聞こえた。
その優しさに 胸が潰れそうになる。
どうしてそんなに優しいの。
嫌いになってくれればいいのに。
震える小さな声で何とか返事をする。
沈黙が流れる。
いるまといる時間は楽しいはずだったのに、
今は苦しく辛い時間に感じた。
きっと、いるまがくれたのは、
肌身離さず持っているアルバムだろう。
1度だけいるまにみせてもらったことがある。
私といるまの写真が沢山入っているアルバム。
私はもうそんなアルバムを見ることもできない。
扉へ向かう足音。
待って。行かないで。
そう言いたかった。
私は唇を噛み締めたまま、
声を殺した。
扉が閉まる音がした。
病室が静かになる。
その瞬間、張り詰めていたものが一気に崩れていく。
声が漏れる。
上手く呼吸が続かない。
涙が止まらない。
苦しい。
苦しいよ。
こんなの、全然優しくなんかない。
いるまを守りたかっただけなのに、物凄く傷つけてしまった。
私は震える手で、棚の方へ伸ばした。
当然届かない。
視界もぼやけて、どこにあるかもわからない。
それでも、必死に手を伸ばした。
胡桃様の作品です✨
私も愛読している小説です…!
誰推しでも楽しんで読める小説になっていると思うので、
ぜひ読んでみて下さいm(_ _)m













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!