張り詰めていた空気が緩み、深い和解を経て迎えた翌朝。
目が覚めると、視界いっぱいに彼の鎖骨が映り込んだ。
カーテンの隙間から差し込む朝日は、昨日までの刺すような鋭さを失い、柔らかなミルク色をして部屋に満ちている。
耳元で、寝起きの低い声が響く。
雲雀くんは私の腰を抱き寄せる腕に少しだけ力を込め、そのまままた、まどろみの中へ沈み込もうとしていた。
ここ数日の、あの防音室に籠りきりだった殺気立った彼はどこにもいない。今はただ、体温を分け合うことに全神経を注いでいるような、無防備な一人の青年がそこにいた。
私が呆れて顔を上げると、彼は悪戯っぽく目を細めて笑った。
その顔があまりに晴れやかで、私は毒気を抜かれてしまう。
あんなに私を追い詰めていた不安が、こうして隣で笑い合っているだけで霧散していくのが不思議で、少しだけ可笑しかった。
二人でゆっくりとベッドを抜け出し、並んでキッチンに立つ。
特別なご馳走を作るわけでもない。ただのトーストと、お気に入りの豆で淹れたコーヒー。
けれど、昨日まではあんなに遠く感じていた彼との距離が、今は肩が触れ合うほどに近い。
トースターの焼ける香ばしい匂いが、私たちの「日常」が戻ってきたことを知らせていた。
彼はマグカップを両手で包み、窓の外を眺めながら小さく息を吐いた。
忙しさに追われ、成果を出すことに汲々としていた日々。それも彼の一部だけれど、こうして抜けたように弛緩した時間を共有できることも、同じ屋根の下で暮らす醍醐味なのだ。
食後、どちらからともなくソファに沈み込み、一つの毛布にくるまった。
テレビを点けるわけでも、音楽を流すわけでもない。
ただ、外で風に揺れる木々の音を聞き、時折、どちらかが思い出したようにとりとめのない話を口にする。
私の言葉に、彼は少し照れたように笑い、私の指先を絡めてきた。
絡まった指先から伝わってくるのは、もはや焦燥ではなく、穏やかな満足感だった。
嵐のような制作期間と、あの夜の激しい和解。
それらを経て手に入れたこの静かな時間は、何よりも贅沢な「小休止」として、私たちの心に深く、深く染み渡っていった。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。