第16話

#第十四話 呼ばれた名前
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2026/01/10 09:00 更新
夕方の空は、薄く色づいていた。
任務から戻った隊員たちは、簡単な報告を終え、それぞれの持ち場へ散っていく。

ユイは、いつものように端に立っていた。
邪魔にならない位置。
呼ばれたら、すぐ動ける距離。

――今日は、もう何もない。
そう思いかけたとき。

「ユイ」

名前を呼ばれた。

反射的に背筋が伸びる。
でも、心臓は跳ねすぎなかった。

振り返ると、真澄隊長がいた。
資料を一枚、手に持っている。

「少し、確認してほしい」

命令ではない。
声の強さも、変わらない。

「……わたし、ですか」

「他に頼む理由がない」

一瞬、言葉の意味が分からなかった。

――役に立つから?
――足りないから?

違う。

「昨日、地図を見ていたな」

事実だけを、淡々と。

「その感覚が必要だ」

評価ではない。
期待でもない。

**信頼**だった。

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資料を受け取る指先が、わずかに震える。
でも、逃げなかった。

「……はい」

短い返事。
それで、十分だった。

後方では、並木度 馨が様子を見ていた。
特に口は出さない。
ただ、位置を少し変える。

(行ける)

そう判断した、静かな合図。

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地図を広げ、ユイは目を走らせる。
昨日と、今日。
重なる線と、ずれる印。

胸の奥で、赤い光が、静かに形を保つ。

「……ここ……」

指先が止まる。

「……通過してるはずなのに……残ってない……」

自分の声が、意外と落ち着いていることに気づく。

真澄隊長は、すぐに視線を落とした。

「……抜け道だな」

それだけ言って、地図に印を加える。

否定も、過剰な称賛もない。

「助かった」

短い言葉。

でも、ユイの胸には、はっきり残った。

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作業が終わり、資料が片づけられる。

「今日は、もう下がっていい」

真澄隊長は、いつもの調子で言った。

「無理はするな」

その言葉は、**信頼した上での配慮**だった。

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廊下に出ると、並木度 馨が並ぶ。

「……呼ばれたな」

「……はい」

「理由、分かったか」

ユイは少し考えてから、答える。

「……できるって……思われたから……?」

馨は、否定しなかった。

「それと、逃げないって分かってたからだ」

過保護だけど、事実は曲げない。

ユイは、胸に手を当てる。

赤い光は、はっきりとそこにあった。

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夜。
ユイは、日記のように紙に一行だけ書いた。

「今日は、名前を呼ばれた」

理由は、書かない。
でも、分かっている。

必要だからじゃない。
役目があるからでもない。

**信頼されたから**。

それは、今まで知らなかった呼ばれ方だった。

ユイは静かに灯りを消し、
その余韻を胸に残したまま、目を閉じた。
次回
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