(なな視点)
午後の授業が終わったあと、私はプリントの整理係にされていた。
面倒なのは嫌いじゃないけど、誰も残ってない教室で紙をひたすらまとめる作業は、さすがに少し退屈だった。
「……あと5枚」
独り言を言いながら手を動かしていると、
ふいに背後から声が聞こえた。
「お、整理係か? ありがと〜助かるわ!」
振り返ると、廊下からのぞき込んでいたのは、
私よりも背が高くて、ちょっとくしゃっとした髪の、見たことのない男子だった。
「……え?」
「ごめんごめん、驚かせた? 一年の教室ってこっちだっけ? 方向音痴でさ〜」
「あ、はい……えっと」
「月岡。月岡 怜央。高二。今日プリント配る係任されててさ〜。どこに出すんだっけって迷ってたらここ辿り着いたってわけ。笑」
なんか、すごいテンションの人が来た。
けど、その笑顔がやけに自然で、力の抜けた話し方がなんだか心地よかった。
「あ……たぶん、プリントならここで合ってます」
「マジ⁉️ありがとう一年生!助かった〜!」
「いえ……」
どこか飄々としていて、話してると肩の力が抜ける感じ。
いかにも“先輩”って雰囲気でもなくて、なんというか……「親戚のちょっと面白いお兄ちゃん」って印象。
「名前、なんて言うの?」
「えっ?」
「プリント届けてくれた人にはお礼言わなきゃって思って」
「……藤宮です。藤宮なな」
「藤宮ななちゃん、ね。覚えとく〜!サンキュー!」
そう言って、プリントの束をひょいっと受け取って、
月岡先輩は教室のドアを背中で軽く開けながら手を振った。
「またどっかで遭遇したらよろしく〜〜!」
そのまま、ひょいひょいとした足取りで去っていく。
風のような人だなと思った。
私は、まだ机に残っていた1枚のプリントを見つけて、
「結局渡せてないじゃん」と、ひとりで苦笑いした。
その日の帰り道。
ほのかちゃんと話しながら歩いていても、
なぜかさっきの明るい声だけが、耳に残っていた。
でもそれは、特別じゃない。
ただちょっと、印象に残っただけ。
本当に、それだけのことだった。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。