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第1話

ある一日
121
2020/04/24 17:20
私の名前はハーモット。
オフィサー達が歩き回るメインルームで私は今日も普通とはとても言えないような、悲哀に満ちた仮面のような物が浮かび上がっている黒くて禍々しいスーツと、白と黒のまるで五線譜の上にある八分音符のような鎌を手に歩いてる。

これはいつも通りの風景。

いつも通りの服装。

ようこそ、 LobotomyCorporation へ。


ここはロボトミー社。
ここじゃあ『管理人』と呼ばれる人から指示を受けて、アブノーマリティっていうよく分からない生き物とか、物をお世話する。
その過程で、アブノーマリティが脱走したり人が死ぬこともある。
私の同期は、地中から伸びてきた枝で全身を貫かれて死んでしまった。
オフィサーが跡形もなく砕かれたり、頭が吹き飛んだりするのも見た。
けどここじゃ見なれてしまった、私は何をしてるのかって言うと、できるだけ死んでしまう人を減らすようにお世話したいって思ってる。
ザーッ、ザーッとメインルームのスピーカーにノイズが入る、指示が入る。

[ ハーモット 、大鳥に愛着作業 ]

…ん?大鳥?あぁ、あのカンテラを持っている鳥か。
愛着は確か撫でたり…えっ。

私は戸惑いながらも足を進めた。確かにここで働いてる年数は長いがあれを撫でるのには抵抗あるぞ…。

そして、収容室に入ると同時にいくつもの目が私を見つめた。
黄色ともオレンジとも見て取れない色の目で私を見つめてくる、どうも薄気味悪い。
片手にはカンテラが握られていて、それは大鳥の手でユラユラの揺れている。これを長い間見ていると魅了して頭を食べられてしまう。

「ギィ、ギィ…」

木が軋むような、そんな声が聞こえる。
初めて聞いた、大鳥の声だ。直感でそう感じた。
私はそっと手を伸ばして、大鳥に触れてみる。
決して触り心地がいいとは言えないゴワゴワとしたなんとも言えない感触。

「ギィ…?ギィ、ギィ…♪」

いきなり近づいてきた、一瞬襲われるのかと身構えたが顔にもゴワゴワとした羽毛が当たった。
…どうやら懐かれたようで、弾んだような声を出しながら私にすりついてくる。可愛い。
私もそれに答えるように笑顔で撫でてみる。

「ギィギィ……」

いきなり座ったかと思うと、大きな目が半分ほど閉じかかっている。
眠たいのかな?
そう思って撫で続けると、大鳥は目を完全に閉じきって、眠り始めた。
静かで、とても安心したような寝息を立てている。
そういえばエンサイクロペディアで見た。
大鳥は自分の羽を使ってこのカンテラを作って、朝も夜も眠らずに一日中森の中をその目を使い怪物が居ないか探し回っていたと。
そんな彼が、私の腕の中で眠っている。
こんなにも安らかで、落ち着いた寝息を立てている。
皆が怖がっていたが、脱走したとき電気が消えるのも、カンテラを使って歩き回って、職員を食べてしまうのも、怪物に先に殺される前に自分で楽にしてあげようというほんの少しの良心なんじゃ?
そんな考えが頭を過り、大鳥に目をやる。


…また今度も来てあげよう。
私は静かに収容室から出ていった。


「で、今日はちゃんと業務をこなしたのね。それより貴方、上層に後輩がいるわよね?ならその後輩にネツァクに書類を提出するように言うように頼んで頂戴。」
はいはい、と適当に返事をしてメインルームに座り込む。あのあといくつかアブノーマリティの世話をした後業務が終わった。全く、終わったばかりだと言うのに疲れきってる後輩や私にそんなことを頼んで来るなんて…と、内心で愚痴を吐きつつリボンの着いた箱型のAIことティファレトAの事を見て軽く頷く。
中層セフィラはやたらと癖の強いのしかいない気がする、と何となく思いながら私は自分の部屋に行く。

今日の死人は、オフィサー含め0。


明日はどんな仕事があるのか。


何人死なせずに済むのか。


おやすみなさい。

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