Θside
一先ず用事を済ませ帰路に着いた途端、
激しく上下に揺れ始めた。
通称 “サイダー”
能力が身体に合わず、収まりきらなかったエネルギーが造り出す怪物だ。
造り出されるサイダーには主に二つの種類に分けられる。
一つは自我を失い、なりふり構わず暴れるサイダー。
もう一つは自我を持ち、特定の恨みを晴らす為に活動するサイダー。
ごく稀に、魔王のように他のサイダーを従える奴も現れるが、滅多に現れない。
今回はどんなサイダーなのか、仲間に詳細を確認するため連絡した。
運営支部から集まった隊員と他の支部から集まった隊員のみで新種サイダーの撃退に努める。
新種、となると何をするか分からない。それに被る被害の規模も、並のサイダーとは桁違いになる。
灯夜の時は、灯夜の身体と1人の少年の命を犠牲に、最小限の被害に抑えられた。
今まで命を犠牲にしてこなかった灯夜は責任を持って辞職した。たった1つだけ、しかし1つも失ってしまった。
実際、それは建前で未成年だった彼を世間の目から遠ざける為でもあった。
残念な事にサイダーの撃退に犠牲は付き物。言うなれば仕方の無い事だったのだ。
何も知ろうとしない一般人は情報に踊らされ、結果、灯夜は能力の作用もあり、人格に大きな歪みが生じ不便な生活を余儀なくされた。
あくまで聞いた話だったけど、ほぼ事実だろう。
ネット上での批判は苛烈を増しに増して、多くの一般人が書類送検される事となった。彼の住んでいた孤児院、住む場所に罵詈雑言の手紙や悪戯を超える明らかな敵意を向けた物が送り付けられていた。
ただ、ネットを見なければ良い、と思うかもしれない。
でも彼にはどうしても出来ない理由がある。
全部視えてしまう。どんなに視たくなくても、本来視えないものであっても、全て可視化されてしまう。
それは揺るがない事実であり、覆しようの無い事実だ。強過ぎる考えや意見は、多過ぎる情報量に重なり続けコントロールしにくい訳だ。
彼が壊れてしまうのも、無理はなかった。
それでも、周りを傷付ける事なく、密かに姿を消す判断をした彼を、賛えるべきだと思ったりする。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!