※くそモブが出ます
その日、翔の家に来たのは翔の友達だった。
玄関でそう言い合う二人の横で、KAITOは翔のうしろに、隠れるように立っていた。
知らない人。
声が大きくて、距離が近い。
KAITOの耳が無意識にびくっと動く。
友達は屈んで、KAITOの顔を覗き込んだ。
一気に近づく顔に、KAITOは一歩下がる。
翔はすぐに間に入った。
友達は笑って、軽い調子で手を握る。
KAITOは翔の服の裾をぎゅっと掴んで、小さな声で答える。
その名前を、まるで面白いものを見つけたみたいに何度か繰り返す。
KAITOは答えず、ちらっと翔を見る。
翔は小さく頷いた。
その一言に安心して、KAITOは首を横にふる。
友達は少し意外そうな顔をした後、肩をすくめた。
そして、嫌味ったらしく口を開く。
翔はその友達をあまり良く思っていなかった。
できることなら、今日だってKAITOに合わせることすらしたくなかったのに。
部屋に入ってからも、友達は何度かKAITOに声をかけた。
でも、その距離感が少しだけ近い。
KAITOは返事をしながらも、少しずつ翔の近くへ寄っていく。
最終的には、翔の膝にちょこんと座った。
友達はそれを見て、冗談めかして笑う。
KAITOは否定せず、翔の腕に軽く触れる。
翔は自然に、KAITOの頭を撫でた。
その一言で、KAITOの肩から力が抜ける。
友達はその様子を見て、軽く笑った。
翔ははっきり返す。
その言葉に、KAITOは安心したように翔の顔を見る。
友達はその場では、それ以上もう何も言わなかった。
ただ、その目が一瞬、押し入れの方を見たことには翔もKAITOも気づくことはなかった。
しばらく経ち、不意に翔の携帯が鳴る。
翔はそう言って立ち上がった。
短い用事のつもりだった。
KAITOの頭を軽く撫でてから、部屋を出る。
KAITOは素直に頷いた。
でも、翔が部屋を出て行ってから、なんだか部屋の空気が変わったような気がした。
さっきまであった安心が、すっと薄くなる。
友達はソファにもたれかかって、KAITOを見た。
冗談っぽい声。
でもさっきよりも距離が近い。
KAITOは無意識に翔が座っていた場所へ近寄る。
友達は軽く笑って、部屋を見回した。
KAITOは小さく首を振る。
そう答えながらも、耳はぴくぴくと動いていた。
友達はその様子を見て、何か思いついたみたいに口を開く。
KAITOは視線が落ち、胸の奥がざわざわする。
友達はそう言って、押し入れの方を指差した。
KAITOは暗くて狭い中を想像して、足が止まる。
友達はそれを聞き、一瞬きょとんとした後、笑いを浮かべる。
その笑い声がさっきよりも大きく聞こえる。
その時、廊下から翔の声がかすかに聞こえてきた。
電話はまだ終わっていなかった。
押し入れの前で、KAITOはぴたりと足を止めた。
暗い戸の隙間。
そこからひんやりとした空気が流れてくる気がして、背中がぞわっと震える。
友達が入るよう促す。
KAITOはぎゅっと拳を握った。
喉がぎゅっと詰まって、思ったより小さな声が出る。
自分でも驚くくらい、か細い声。
でも、確かに言った。
友達は聞き返す。
KAITOは視線を落としたまま、もう一度声を絞り出す。
耳が伏せて、尻尾も不安そうに揺れる。
理由は説明できない。
ただ、嫌という感覚が胸の中にある。
小さく、でも確かに続けた拒否。
それでも友達は深刻に受け取らない。
それは、翔を待つという意思表示だった。
友達はため息まじりに言う。
一歩一歩距離が近くなる。
KAITOは後ずさるように下がる。
KAITOの声は、もう震えていた。
それでも友達は軽い調子のまま言う。
腕を取られて、抵抗する間も無く暗い空間に押し込められる。
——パタン。
戸が閉まる音。
その瞬間、KAITOの頭の中が真っ白になる。
狭い。
暗い。
逃げ場がない。
息を吸おうとしているのに、上手く吸えない。
呼吸が浅く、早くなる。
胸が苦しくて、どうすればいいのかわからなくなる。
声が途切れる。
名前を呼びたいのに、言葉にならない。
頭がくらっとして、手足に力が入らなくなる。
押し入れの中で、KAITOはその場にしゃがみ込んだ。
押し入れの外で、友達は背を向けたまま言う。
中の様子も、ちゃんと見ようとしない。
悪びれる様子はなかった。
その時、廊下から足音が聞こえてきた。
返事がない。
嫌な予感がして、慌てて部屋を見回す。
しかし、KAITOの姿はどこにもない。
その時、押し入れが目に入る。
ためらいなく押し入れの戸を勢いよく開ける。
そこには、小さく丸まって、必死に息をするKAITOがいた。
翔はすぐに抱き上げる。
胸に抱いて、震える背中を一定のリズムで撫でる。
言葉も動きも、全部KAITOのペースに合わせる。
しばらくして、呼吸が落ち着いてくる。
KAITOは、翔の服をぎゅっと掴んだまま、涙目になって小さく声を出した。
翔はその言葉を聞いた瞬間、席を外してしまったことを後悔した。
そう言って翔は、その小さな体を腕に抱いたまま、ゆっくり立ち上がった。
視線がまっすぐ友達に向く。
声は低く、静か。
でも、明らかにいつもの翔じゃない。
友達は一瞬たじろいだ後、軽く笑って手を振る。
その言葉が終わる前に、翔が一歩距離を詰めた。
その一言だけで、空気が張り詰める。
翔はKAITOの背中に手を回し、守るように自分の方に近づけた。
友達が目を逸らす。
翔の声がさらに低くなる。
腕の中で、KAITOはぎゅっと翔の服を掴む。
翔は一瞬視線を落として、KAITOに聞こえないように、でもはっきり言った。
友達は言い訳を続けようとする。
友達の顔から、ようやく余裕が消える。
声は荒げていない。
だからこそ、完全な拒絶だった。
友達は何も言えず、重たい沈黙のまま部屋を出て行った。
扉が閉まった後、翔はしゃがみ込んでKAITOをぎゅっと抱き直す。
KAITOは小さく頷く。
KAITOの頭を優しく撫でる。
恥ずかしそうに呟く。
それを聞いて、翔はとても嬉しくなった。
その言葉に、KAITOの体から少しずつ力が抜けていった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!