・ ロアちゃん視点の回想のようなもの
・ ネクト・ショタオンとロア・ロリヴァーシュが出ている
・ ずっとロアちゃんがキレてる
苛立ちのままに、盛大に魔物を蹴り飛ばした。
塵となって消えていくそれから視線を外して、舌打ちをひとつ。
何のために、ここまで焦ってる。
何のために、ここまで怒ってる。
もうぜんぶ、あのバカのせい。
ひとりで突っ走って、死線を潜り抜けて帰ってくる、あのバカのせい。
黎明そのものになってしまった、もうずっと遠くに居る、あのばかのせい。
「 …………ばか!!! 」
苛立ちのままに、地面を蹴り飛ばした。
土が舞って、べちゃりと木に張り付く。
腹立つ、苛立つ、ムカつく、むしゃくしゃする!
誰が英雄だ、誰が勇者だ!幼馴染のちっぽけな女ひとり救えないくせに!
あいつはそんな崇高な人間じゃないのに、そうやって、崇め讃えては祀りあげる。
そうして、あいつはひとじゃないようなひとになってしまうのだ。
あいつを「最年少で騎士になった天才」に仕立て上げた手段も、そういうものだった。
ネクト・ヴァリオンは、あれさえなきゃ、もっと人間らしかったのに。
…あれがなくても人並みの人間らしさがあったのかは、甚だ疑問だが。
「 ロア、おはよう 」
「 いまは夕方だよ 」
………………そう。幼少期のネクト・ヴァリオンとは。
一日の大半、剣を振って過ごし、幼馴染且つ半分兄弟のような存在の私にすら、自分から顔を合わせに来ない、ひどく面倒でつまらない男だったのだ。
ひどく面倒でつまらない男なのは、今もそうだけど。
「 ロア、あした、おれと勝負しようよ 」
「 ネクトは強いからいや! 」
情けないことに。
当時から私は、一度もネクト・ヴァリオンに勝てた試しがない。
男女差なんてその頃の私達にあるはずがなかった。身長差もそう。
それくらい、幼い頃から。わたしは、ネクト・ヴァリオンに、勝てていない。
別に、わたしが何もできないわけじゃない。きっと、そうだ。
ネクト・ヴァリオンという男が、なにもかも規格外で、狂ってて、可笑しいだけ。
そうであってほしいと、いまだに希う。
そうじゃなきゃ、わたしは、一体なんなんだ。
「 ロア、ロア。裏の森に行くの?
危ないから、おれも行く 」
「 いらないもん!裏の森のことは知ってるよ。
魔物なんていないし、大丈夫だってば! 」
いつもいつも、ネクトがわたしに引っ付いてきたものだから。
面倒になって、ネクトを避け始めた頃だった。
裏の森に、ハーブを取りに行った。
知り尽くしたいつもの道、知らないことのない森。
「 っ、ひ、 」
こんなことになるとは、思ってもいなかったのだ。
爪を光らせた異形の魔物。獅子の頭、山羊の胴体、蛇の尻尾。
数々の名のある戦士が、魔物の前に屍を作った。
__キマイラ。早々見ることもない怪物のはずなのに、どうして、こんなところに。
爪が振り下ろされる、その一瞬。
「 ロア!!! 」
聞き馴染んだ声が、鼓膜を震わせた。
視界が青くなって__気づいた時には、眼前にキマイラの死体が転がっていた。
それと、焦ったようにこっちに来るネクト。
その右手には、見慣れた、なんの変哲もない兵士用の剣。
「 ……え、? 」
「 怪我は?どこか痛くない? 」
数々の伝説で英雄を屠ってきた神代のかいぶつを、
なんの変哲もないただの剣で一撃、だなんて。
信じられなかった。信じたくなかった。
それでも、目の前に見えているそれだけが真実だった。
「 ………ネク、ト 」
「 何? 」
それを知っていたから___私は、ネクトが城の騎士になるとき、ああ言ったのだ。
「 無茶、しないでね。 」
「 うん。善処する 」
ほんとうに、わたしはばかだ。
ネクト・ヴァリオンの無茶は、凡人の無茶じゃない。英雄の無茶でもない。
息をするようにキマイラを倒す人間に、無茶なんてあるはずがなかったんだ。
「 ネクトくん、近衛騎士になったんですって! 」
「 スピード出世にも程があるな 」
何をやったんだか__(風の噂によると、単独で敵の手に落ちた砦を取り返したらしい。頭沸騰してるんじゃないの?………元からか)ネクト・ヴァリオンは、最年少で騎士に昇格した。しかも近衛騎士に。
王を筆頭とした王国の重要人物を守る権利を与えられた、唯一の立場の騎士に、なったという。
「 __ネクトくん、 」
なにより私が、『ネクトはもういないんだ』と感じたのは。
この言葉を聞いてからだった。
「 フィルドの剣を抜いたんだって。
だから、今回はネクトくんが『聖紋の騎士』らしいよ! 」
かたや、オルヴァの八英傑さま。
かたや、生まれた村から出てもいないちっぽけな小娘。
ここまで離れた時点で、どれだけ一緒にいた時間が長かろうと、わたしとネクトは他人だった。
「 ……ばか 」
奇襲して、搦手を使って、死角を狙って。
そうやってぼろぼろになりながらようやく倒したキマイラの死体を、怒りに任せて蹴り飛ばした。
「 ひとりでいるのが怖いなら、わたしを置いて行かないでよ!!! 」
仮に私がオルヴァに戻って、故郷に帰ったとしても。
そこで生きるわたしの隣には、わたしの知るネクトはいない。
いるのは、黎明の勇者になってしまった、英雄のネクト・ヴァリオンだ。
これは私のエゴで、我儘なんてことは、分かっている。
二度と、あのときのネクトは戻ってこない。ひとは変わる。
それでも__ああ。
「 ………………ネクト、 」
「 どうしたの?どこか痛い? 」
「 ………ありがとう 」
あの日、眼前の絶望と真実に打たれながら、ようやく立ち上がったわたしに。
「 どういたしまして! 」
冬の空のように澄み切った笑顔を向けてくれたきみは__もう、そこにはいないね。
変わりようがない現実を見つめながら、私は立ち上がった。
それでも、君が一人で泣くのなら、私は君に追いかけなきゃいけない。
地獄を超えても、隣に立てなくても、それでも。
「 ……あーあ、あんなバカとなんて、出会わなきゃよかった! 」
それでも。
ネクトと出会わなかったら、わたしはここにいないのだから。
全く、ふざけた現実だ。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。