その日はやけにお酒くさかった。
彼の所有物となって暫くこの場所に住んでいるけど、こんなに酔っ払ってる彼を見たのは初めて。
いつもこの部屋に帰ると私を求めてくるジンの様子が少し違ったように思う。
彼がベッドの上で差し出したのはあの花びら。
ガラスケースから取り出して口に挟み私に近づいてくる。
寝る前に渡されることが多いのに今日は何をするつもりなんだろう?
そしてこの花は一体どんな力を持ってるの?
ジンのことだから、このまま眠らせてくれる訳ではないはず。
花びらを咥えたまま至近距離まで来て、私の顔を挟み込んだ。
喋る為に指で挟んだ花びらを、ジンが再び口に咥えた。
近付いてくるジンの身体を手で抑えて、地下室以来初めて彼に抵抗をした。
今更無意味な会話をして話を逸らそうとしたけど、ジンの顔が段々曇ってくる。
だけどこわいのは本当だし、今日は彼の様子がおかしい気がする。
これで何とかこの行為をかわせれば…
そう思うと、止まらずに口は動き出す。
突然声を荒げた彼に心臓が止まるかと思うほど驚いた。
大きな声を聞いたのも、こんなに焦っているのも初めて見たかもしれない。
真っ赤な顔をして怒る彼の口からひらひらと花びらが舞った。
シーツの上に落ちるのを見ると同時に我に帰る。
少し息の荒くなったジンが一度ごくんと唾を飲み込んだ後、ギシッとベッドの音を立てて膝立ちになる。
そのまま私を見下ろしてから顎を掴んだ。
久しぶりに聞いた "奴隷" という呼び名。
耳に入ってくると、以前は心地良かったはずが今は痛い。
自分の存在を認識するのがこんなに辛いのは、私自身が変わってしまったからだろうか?
だけど私をそう呼ぶ彼の表情も、すごく苦しそうだった。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。