第8話

タイプ 🥂✨
504
2026/03/16 09:33 更新




不破湊はずるくて賢い

最初にそう思ったのは、たぶん中学二年生の春だった

高校生になった今も、そのイメージは変わっていない



🥂
  なぁ  

後ろから肩を軽くつつかれる

振り返ると、いつもの湊

🥂
  今日ひま?  
あなた
  ひまじゃない  
🥂
  即答か w  

湊は笑った
いつも通りの、軽い笑い方


でもその目は、まっすぐこっちを見ている

🥂
  映画見に行こ  
あなた
  なんで  

🥂
見たいって言ってたやつ、今日からやん
あなた


思わず声が出た
確かに、そんなこと言った気がする


でもそれは、一週間くらい前
しかもただの雑談で

あなた
  覚えてたの? 
🥂
  まぁね?  

当たり前みたいに言う
🥂
あなたの下の名前の言ったこと全部覚えてるしな


冗談っぽい声だった

だから私は、深く考えなかった

あなた
  怖いんだけど  
🥂
  ひど  



湊は笑う

その顔は昔から変わらない
明るくて、軽くて、どこか余裕があって

誰とでも仲良くなるタイプ



なのに


あなた
  ……なんか  


気づいたら言っていた

あなた
  最近、変わったよね  

首を傾げる湊

私自身も、何が言いたいのかぼんやりとしか理解していなかった

🥂
  俺?  
あなた
  うん  


少し考えて、言葉を探す

あなた
  前より優しい  
🥂
前は違うみたいな言い方やめて?
あなた
  そうじゃなくて  


冗談ぽく言う彼に私は首を振った

あなた
  なんか……  


うまく言えない




前より大人っぽい
前より気遣う
前より、私のことを見てる



まるで
私の理想の彼氏みたいに




湊は少しだけ黙った

それから、ふっと笑う


🥂
  好きな子のタイプがさ  
🥂
  優しい男なんよ  

軽い声
でも胸が、少しだけざわつく

いつかの私が湊に言ったことだった


あなた
  へぇ  
🥂
  あと大人っぽい男  
あなた
  うん  
🥂
  あとちょっと強引な男  

思わず笑った

あなた
  近ずこうとしてるんだ?  
あなた
  すごいね  
🥂
  でしょ  

湊も笑う





でも





なぜか分からないけど
私は、言わなきゃいけない気がした



あなた
  でも  


湊を見る

あなた


一瞬だけ

本当に一瞬だけ

湊の目が、真剣になった


あなた
  湊のことは  

言葉が喉に引っかかる

でも言う

あなた
  そういう感じじゃないよ  

沈黙

風が吹く

髪が揺れる


不破は、数秒黙ってから笑った

🥂
  は?  
🥂
  なにそれ  
🥂
  急に振るじゃん  



いつもの調子

だから、きっと大丈夫


そう思った






ーーーーーーーーーーーーーーー





_____その日の夜


スマホが震えた




画面を見ると、湊からだった



🥂
  なぁ  


短いメッセージに

「なに」

と返すと、すぐに既読が来た


🥂
  明日の放課後ひま?  


「ひまじゃない」


送信
数秒後
また通知

🥂
  まじかー  
🥂
  じゃあまた誘うわ  


「 ごめんね 」

と送信すると、返事が来た

🥂
  その時はさ  
🥂
  時間作ってな  






次の日の朝

教室に入った瞬間、視線を感じた


窓際の席
そこに、不破がいた


🥂
  おはよ  

いつも通りの声

軽い笑顔

あなた
  …おはよ  


私は席に座る


なんとなく昨日のメッセージを思い出していた



湊はスマホをいじりながら言った




🥂
  既読つけるの遅かったな  
あなた
  え?  
🥂
  昨日  

心臓が少し跳ねる
🥂
  急かしてるつもりはないんやけど   

不破は少し笑って肩をすくめた
🥂
  まぁ、いっか  



それだけだった

それなのに

胸の奥に、小さな違和感が残る


授業が始まって
休み時間になって
昼休みになって


その間、湊は何度も話しかけてきた



🥂
  今日弁当?  
あなた
  うん  
🥂
  唐揚げ入ってる?  


思わず顔を上げる

あなた
  なんで知ってるの  
🥂
🥂
  あなたの下の名前唐揚げ好きやん  
あなた
  まぁ…好きだけど  



それは、確かにそう


でも

あなた
  なんか怖いんだけど  


冗談で言ったつもりだった
湊は一瞬だけ黙ってから

ふっと笑う

🥂
  怖がられてる  
あなた
  いや、だって  
🥂
  大丈夫  

🥂
  俺お前のこと好きなだけやし  


さらっと

あまりにも普通の声で言うから
私は言葉に詰まった


あなた
  ……そういう意味じゃなくて  
🥂
  どういう意味?  


湊が顔を近づける

距離が、近い


あなた


少し目線を逸らして言う

あなた
そういう感じじゃないって言ったじゃん



空気が止まる


数秒
不破は、ゆっくり瞬きをした


それから


🥂
  あー  
🥂
  そっか  


軽い声で言った


笑う。でも
その笑顔は少しだけ、疲れて見えた



🥂
  じゃあさ  


湊は机に肘をついて
私を見た


🥂
  どんな男がいいん?  
🥂
  あなたの下の名前の理想  
あなた
  べつに……  
🥂
  あるやろ  



私は少し考える



あなた
  優しい人  
あなた
  落ち着いてて  
あなた
  ちゃんと話聞いてくれる人  


湊は黙って聞いていた

それから、ゆっくり笑う


🥂
  了解  
🥂
  頑張るわ  
あなた
  なにを  
🥂
  理想  




軽い声
いつもの冗談みたいに言う

でも、その目は
少しも笑っていなかった





ーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーー





それから数週間





私は気づき始めた





湊が変わっていくことに。

前より静か
前より優しい
前より、私の話を聞く







まるで
私の言った理想そのものみたいに





だけど
どうしてだろう
胸の奥に、違和感がある







_____ある日の帰り道




🥂
  なぁ  
あなた
  ん?  
🥂
  俺変わった?  


私は少し考える

あなた
  ……変わった  
🥂
  いい方に?  
あなた
  うん  



そう言うと、湊は少し笑った


🥂
  そっか  


数秒の沈黙


夕焼けが、街を赤く染めている
その中で、湊がぽつりと言った


🥂
  じゃあさ  
🥂
なんで、あなたの下の名前、まだ俺のこと好きじゃないん?


足が止まる
心臓が、ドクンと鳴る




うまく答えられない

すると、湊は笑った
優しい声で



でも
どこか壊れそうな声で



🥂
  …………なぁ、俺さ  


ゆっくり言う

🥂
あとどれくらい、お前の理想になればいい?


その瞬間

背筋が、ぞくっとした




湊は笑っている





いつも通り



なのに、その目だけが

全く笑っていなかった




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