探偵社side
謎の組織「黒龍」が来航してから一夜が開け、探偵社員は皆会議室に揃っていた。
昨日の船体を目撃した太宰、敦が皆を集めたのだ。
「太宰、敦くん。この僕をこんなに早くから呼び出すなんて…一体どんな話があるんだい?」
不満そうに駄菓子を食べる少年と間違えそうな雰囲気の青年-江戸川乱歩-は机に足を乗せて口を尖らせていた。
「ちょっと、昨日私達が見たものを皆さんにお伝えしようと思ったので」
ニコリと笑って太宰は乱歩に説明をした。
太宰に頼まれ、大量の書類を持ってきていた敦はまだ全員揃ってないのを確認すると机に書類を広げていった。
ガチャリとドアが開く音と共に、その他面々が入ってきた。黒髪を肩の上で切りそろえた女性「与謝野晶子」。金髪の少年「宮沢賢治」。そして、やけにイチャイチャしている兄妹「谷崎潤一郎」とその妹「ナオミ」。
「あれ…社長はまだ……ですか?」
室内を見回し敦は首を傾げた。社長が遅刻とは珍しい。社内には居るはずだがどうしたものか…。
皆が席に着くと、社長「福沢諭吉」が入ってきた。
「遅れてすまない。」
「いえ、大丈夫です。これで全員ですね。」
敦が室内を見回す。
「あぁ、そうみたいだね」
太宰が相づちを打つ。それと同時にずっと黙っていた金髪を1つに束ねた青年「国木田独歩」が口を開いた。
「それで、ここに皆を集めたのは何故だ?」
「それはね、さっきも云った通り…昨日私達が見たものをみんなに伝える為だよ」
意図の読み取れない笑顔を浮かべ、太宰が書類のうち一つをとった。
「それは何ですか?」
賢治が不思議そうに首を傾げる。
「これはね、昨日私達が見た船体の写真さ」
その写真には炎を纏い闇の中を漂う昨日、太宰らが見た物だった。
「昨日、それがヨコハマの空を飛んでいた……と云う事か?」
福沢は理解したように云い、不気味な船体の写真を見ていた。
「えぇ。これは恐らく黒龍と云う組織かと。」
「聞いた事がある。黒龍…伝説と云われる組織では無かったか?」
黒龍-それは日本の伝説の裏組織と云われている組織で、あのポートマフィアに及ぶとされている組織であった。
「あぁ…そうだよ。その黒龍がこのヨコハマに来た」
「何っ!?」
国木田を初めその他面々も驚きを隠せなかった。そんな中、一人冷静な者がいた。乱歩はじっと書類を見つめ何か考えていた。
「どうした乱歩」
福沢が声をかけると乱歩は顔を上げた。
「この組織…近々この街を乗っ取ろうとするかも知れないと思って」
「乱歩さん!それは、本当ですか!?」
「国木田くん、乱歩さんの云う事は本当だ。黒龍は、ヨコハマを支配しようとしている」
太宰は冷たく遠くを見据える様な目をしていた。
「良く聞け」
福沢が鋭い声で発する
「我々、武装探偵社は総力をあげて黒龍の捜査を開始する。」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!